すべてはあの花のために④

sideチカゼ


「……一体、なんだってんだよ」


 チカゼは壁へもたれかかる。


「ただオレは、 ……お前がオレにしてくれた分を、お前に返したいだけなんだっつの」


 ため息をつきながら起き上がり、ポケットに手を突っ込んで歩き出す。


「あの野郎、絶対に何か隠してやがるし。しかも……人には言えないだと? だったらオレが、動いてやろうじゃねえか」


 チカゼの顔がしたり顔になっていく。


「……まずは理事長に聞いてみっか。ヒナタが前言ってたけど、あいつがどこから来たのかもオレらは知らねえわけだし……」


 階段を一歩、また一歩強く踏み締める。


「それから家……道明寺か。それはシントさんに聞くか。でも、連絡先は誰から聞くか……あ。そういえばさっき、カエデさんから連絡が来たって言ってたな。だったらカエデさんかアキ辺りが知ってるだろ。今はそうでなくても皇の人間だったわけだし。そもそもアキの兄貴だし」


 病室の扉の前まで戻ってきたチカゼは、大きく息を吸う。


「……オレが、お前の【赤い目】を直してやる。ついでに、好きとやらも教えてやろうじゃねえの」


 チカゼは、祖母のいる病室の扉を勢いよく開けた。



「はいおかえり。振られたかえ?」


 帰ってきて早々、そんなことを言われてずっこけた。


「? 告白しとったんじゃろ? あんたが好いとるくらい知っとるわ。ばあちゃん舐めたら痛い目見るでえ」

「う、うるせえなッ」

「ほれ図星やないか。……にしても」

「ん? どうしたんだよばばあ」

「……んや。勘違いかもしらん。気にしいな」


 首を傾げていたチカゼを、祖母フジカは手招きする。


「まあ美人さんやし、ハキハキものを喋るし、何よりいい子そうや」

「――!」

「ばあちゃん応援だけしとくで。あんな上玉、あんたには無理やろうから」

「おいッ! そこはもうちょっと孫を労れよ!」

「なんや、やっぱ振られたんかいな」

「~~っ! こ、……こっからが勝負だっ」

「はあ。先が思いやられるわ」


 フジカは、頭を抱えていた。

 そのあと点滴が終わり、一緒にタクシーに乗って家まで帰る。


「……その。オレ、いろいろ頑張るから」

「は?」

「今まで心配掛けてきた分、立派になってみせるから。……だから、まだぽっくり逝くんじゃねえぞばばあ!」


 帰ってきて早々、「それじゃあ、学校行く支度できたらそのまま行ってくるから!」と。照れくさくなって逃げるように家の中を駆けていったチカゼは、知る由もない。



「……やれやれ。もう十分。立派や」


 フジカの目に、微かに涙が溜まっていたことを。


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