すべてはあの花のために④
sideカエデ
葵と別れたカエデは、眉間に皺を寄せたまま、車を走らせていた。皇へと戻っていた途中で連絡が入り、路肩に車を停める。
「はい。カエデです」
もちろん、相手には執事モードで。
「お聞きになりましたか。……ええ、きっと彼女は『芽と蕾』にたとえて――」
一体相手は誰なのか。
「……え。手紙ですか? ……そうですね。あなたには報告しておくべきでしょう。現物をご覧になりますか? ……え。今から?」
カエデは、相手が指定した場所と時間を記憶する。
「……はい。わかりました。一度皇へ帰ってからそちらに向かいますので、少し遅れたら申し訳ありません。……いえいえ。こちらこそ助かりましたので、お互い様です。……はい。それではまた後程」
カエデは電話を切って、車を走らせる。
「……ッて、時間指定すぐかよ! ぶっ飛ばさないと間に合わねえ!」
カナデは法定速度を守りつつ、アクセルを強めに踏み込んだ。赤信号で引っ掛かるや否や、煙草に火を点ける。
「はっ。絶対アキに怒られるな。煙草臭いって」
点けてすぐ、苛ついたようにぐりぐりと先を潰した。
「……所詮俺も、駒っつうわけだ」
カエデは、スマホのボイスレコーダーの再生ボタンを押す。
『むかしむかし、ある咲きたての花から、小さな芽が、出ました。
――――――……
――――……
これはひとつのお花のお話です。ある花たちにとってはとっても幸せで、ある花たちにとってはとっても不幸せで。その花にとっては、……とっても残酷な』
「……なんなんだ、この話は」
赤信号になり、ハンドルに置いている手の上に、自分の額を押しつける。でもすぐに青信号になって、慌てて車を走らせた。
「……これは、しょうがねえことなんだよ。俺も、情報をもらっちまったから」
自分から出てきた言い訳に、カエデは思い切り顔を歪ませる。
「……チカゼくんを盾に、社長と奥様を脅迫してた奴と」
到着して、カエデは強めにドアを閉めて皇を見上げる。
「……アキと奥様を襲った犯人が、実は同一犯だってことを」
カエデは苦痛に顔を歪めながら、皇へと帰って行った。