すべてはあの花のために④

ベタな展開


 あの後、朝ご飯を食べていなかったことを思い出した葵は、近くのコンビニでパンを購入。パンを咥えたまま、俊足で学校へと向かっていた。


「(漫画でよくあるよねー。こんなベタな展開――ッ?!)」


 絶対にないと思っていたら、曲がり角を曲がった瞬間、ふわりとやさしい香りの人にぶつかって尻餅をついてしまった。


「(いったーい!)」


 咥えたまま悶絶する葵。
 食べ物は粗末にしちゃダメだからね。ちゃんとゴックンします。


「す、すみません。大丈夫ですか?」

「こ、こちらこそごめんなさ――……え」


 手を差し伸べてくれるその人に、慌てて葵も謝ろうとした。


「ん? どうかされ…………あ。道明寺先輩?」


 目の前にいた彼は、桜の制服を着ていた。
 スラリとした身長に、綺麗な顔立ちの顔。それから……聞き覚えのある声。


 ……――そして。


「……銀髪……」


 まるで、あの人が目の前にいるようだった。


「ああ、これ地毛なんです。クオーターなんで、外国の血が少し入ってて」

「あ。……えっと。そ、そうなんですね?」


 どうしても、目の前の彼が、あの時の『彼』と重なって見えてしまって動けない。


「それはそうと、お尻が冷えてしまいますよ」


「よければ手を」と、紳士のように振る舞う彼に動揺しか返すことができないでいると。


「……えっと、このままだと恥ずかしいので、手を取っていただけると有難いんですけど」

「――……!」


 同じような台詞に似過ぎた声。
 葵は動揺を押し殺しながら、彼の手に自分のそれを乗せる。

 すると、彼は嬉しそうに微笑んだあと、葵のことを引っ張り起こしてくれた。


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