すべてはあの花のために④

なんだかんだで結構ドS


 次の日の放課後。生徒会の会議はないが、〈話したいことがある〉とオウリから連絡が入ったため、みんなが集まってくる前に葵は、いつもの報告をしようと理事長室を訪れていた。

 ノックの音に中から了承の声が。いつものように中へ入り、理事長に報告をする。


「――……以上で、『柊 千風』並びに『氷川 桜李』の報告を終わります」

「うん。……そっか。あいつはもう、話せるんだね」


 理事長の顔に影が落ちる。それに葵は、「はあ」とため息をついた。


「理事長、チカくんはもうちゃんと自分と向き合えるようになったので、事情もおばあさま、サツキさん、アカリさん、カエデさんから全て聞いています」

「……そうかい」

「オウリくんも、声が出るようになりました。お母様も心が戻りました。……だから、もうオウリくんのことで、お母様のことを嫌わないであげて欲しいんです」

「……!」


 理事長の瞳が不安げに揺れた。


「お母様のお見舞い、行かれていないんでしょう?」

「……どうしてもね、行けなかった。嫌だったんだ。桜李の声を奪っておきながら……って」


 葵はただ、彼の弱さを聞いてあげた。


「でも……うん。近いうちに、花梨さんのところへ行こうと思うよ」


「でも、もしかしたら手が出ちゃうかもしれないから、炎樹くんについて行ってもらうことにする……」とボソボソと呟く彼には「そんなことしようもんならあなたボッコボコになりますよ」とは、敢えて教えないでおいた。


「では、これで失礼しま」

「あ、待って葵ちゃん」


 彼はまた、葵のことを引き留めた。


「……何でしょうか」

「うん。……葵ちゃんの、体調はどうかなと思って」

「どうしても、わたしの口からお聞きになりたいんですね」

「――!」


 どうしてそんなことを聞いてくるのかはわからない。でも、彼が心配していることには変わりないのだろう。


「……もう、時間はあまりないかもしれません」

「どれくらいかは、わかるのかい」

「……少なくとも、わたしが枯れかかっていても、願いは必ず叶えるつもりでいますから」

「うん。ごめんね」


 申し訳なさそうに俯く彼に、もう一度ため息をついた。


「何言ってるんですか。あなたは、他でもないわたし(、、、)のために、この願いを言ってくれたんじゃないですか。わたしは、あなたに感謝していますよ。そのためなら、……願いでわたしが枯れるなら、それこそ本望ですよ」

「……君はもう。『願い』の意図に、気付いてしまったんだね」


 今にも泣き出しそうな理事長には、ただ小さく笑うだけ。


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