すべてはあの花のために④
あとで湿布を貼ります?
今日も遅くなってしまったので、ヒエンが気を利かせてくれて、氷川家にお泊まりすることになった。
お風呂をいただき、みんなでパジャマパーティー。
夢中になって、念願の枕投げで大はしゃぎ。
それからみんな、朝が早かったから、死んだように眠った。
みんなにそっと布団を掛けてあげて、一人ベランダへと出る。
バスケやテニスが余裕でできそうな広さに驚いていると、入り口から一番遠くのところで、夜景を見ながら煙草を吸っているヒエンを発見。
「ヒエンさんごめんなさい。オウリくんに、お母様に一目惚れしてたこと言っちゃいました」
「――なっ?! ……お、お嬢ちゃん。余計気まずくなっちまったじゃねえかよ」
ぼーっとしていたのか、長くなった煙草の灰がぼとっと手に落ちて、少し熱がっていた。
「どうかされたんですか? 何か思うことが?」
ヒエンは何も喋らなかった。
ただ、真っ暗の闇をずっと見続けていた。
「……オウリくん、わたしがここへ来る前から、もうとっても強かったです。随分と前から、自分とちゃんと向き合っていましたよ」
視線も合わせようとしない彼に、葵はにっこり笑いかける。
「今まで一人で抱え込んできて、大変でしたね。大丈夫ですよ。誰も聞いてないです。わたしも聞かなかったことにしますから、よければあなたの胸の内、少しでも聞かせてもらえませんか?」
軽く耳を塞ぐようにしながら尋ねると、彼がようやく目尻に葵のことを映す。
「お嬢ちゃんには、一生かないっこねえな」
大きなため息をついた。まるで観念するような……諦めたような声で、彼は葵の頭に手を置く。
そんな彼に眉を顰めて「馬鹿なこと言わないでください」と、思い切りヒエンの背中を叩いた。
「人には適材適所というものがあります。わたしではここまで強くてやさしい彼に育てることなんてできません。ここまで彼を育ててきたのはあなたでしょう。自信を持ってください」
彼は痛すぎてもがいていた。初めは手摺りに背中を付けてみたり、地面に擦り付けたり、壁に擦ったりしたけど、相当痛かったらしい。
終いには、しゃがんで落ち込んでいた。
「……あとで湿布を貼ります?」
「その前にすなッ!!」
いい感じの突っ込みに、つい嬉しくなってグッドサイン。
疲れたのか呆れたのか、そのあとは膝の間に頭を入れて、顔が見えなくなるほどに俯いていた。