すべてはあの花のために④
sideカナデ
カナデは葵を抱きかかえながら、みんなが寝ている部屋へと戻ってくる。その部屋の扉の前で「開けて?」と葵に頼むけれど、彼女は首を振るだけ。
「カナデくん。わたし、今日は寝ないからっ」
「だーめ。俺と一緒に寝よ?」
結局葵がドアノブに手をかけることすらしなかったので、カナデは自分の肘を器用に使って中へそーっと入る。
「カナデくんっ! わたし寝ないから! 下ろして!」
「しー。みんな寝てるから、静かにしなさいっ」
ゆっくり下ろしたカナデは、そんなことを言う葵の口に指を当てて黙らせる。けれど、葵はぷいっと顔を逸らして、そのままドアまで歩いて出ていこうとする。
カナデは扉を押さえて、それを阻止した。
「アオイちゃん全然寝てないでしょ? ちょっとでも寝ないと……」
鋭い目つきでカナデを睨む葵。
でも、カナデも負けるわけにはいかない。何度も寝るように説得を試みた。
それでも、やっぱり葵は寝ようとしてくれなかった。首を振って、何度も拒否し続けた。
カナデはどうしたものかと悩む。葵が、今にも倒れそうなほど青白い顔色をしていたから。
「(真っ暗だった時はよくわからなかったけど、明るくなってはっきり見えたら、真っ青なんだもんな……)」
カナデは意を決し、駄々を捏ねる葵の手を取る。
「――!」
けれどその手はすぐに払われた。そして、一瞬カナデに取られた手を、葵はもう片方の手で握る。その手は、カタカタと震えていた。
「……アオイちゃん」
「こ、これはあれだよ。外にいて寒かったからで」
「何がそんなに怖いの」
「……っ。怖く、なんか……」
「じゃあ寝なくてもいいから、震えてる理由教えてよ」
葵は口を閉じた。唇をぐっと噛み、両手にも力を入れて、震えを必死に止めようとしている。
そんな葵の手を取って、カナデは握ってやる。包み込むようにそっと。彼女の震えが、少しでも落ち着くように。
そのまま葵の体を支えるように腰に手を添え、壁際へ。その壁にもたれるように座って、葵もゆっくりと座らせる。
「じゃあ俺が眠いからここにいて欲しい。理由は聞かないから。その代わりちょっとだけでいいから、目瞑って?」
「……い、いやだっ」
「……わかった。それじゃあこうしよう」
カナデはそっと、葵の目元に手を当てて視界を塞ぐ。
「かなっ」
「一分だけでいい。目を閉じて深呼吸して?」
「や、やだ」
「アオイちゃんの震えが治るまででいい。俺が、そばにいてあげたいんだ」
一分経って、体の震えが治まったら、もう引き留めないから。
そう約束すると、初めは躊躇った葵だったが、それまでは絶対に放すつもりがないことを察したのか、渋々頷いてくれた。