すべてはあの花のために④

side……


 6時になり、一人一人目が覚めて伸びをする。
 そしてすぐ、取り敢えず状況の確認をしていた。男性陣はガッツポーズ。先程までくっついて寝ていたカナデと葵が離れていたからだ。

 本当はすぐ剥がしに飛びかかりたかった彼らだったが、ちらりと見えた葵の顔色やカナデの表情に、苦虫を噛む思いで我慢していたのである。

 葵は少し暑かったのか、カナデから少し離れた床の上で、ネコのように丸まっていた。


 そのかわいさに見ているだけで照れていると、カナデもむっくりと起き上がり伸びをする。最中にみんなから相変わらずの殺気を向けられるのだが、取り敢えず葵から擦れ落ちている毛布を掛け直し、ついでに自分のも掛けてあげた。



 そのあとキサも起きたが、葵はもう少し寝かせてあげようということになり、全員で静かに部屋を出る。


〈あーちゃん
 今日は家の用事で
 学校休むんだってー!〉


 それなら、本当にギリギリまで寝かせてあげられるだろう。そう思ったみんなの頭を次に過ったのは、恐らくその『家の用事』のこと。リビングに集合したみんなは、真面目な顔で話し合っていた。


「……どう思う秋蘭」

「こればっかりはわからないな」

「あおいチャン、家嫌いなんでしょ?」

「駒としか思われてない、つってたぞ」

「その駒として、今日は用事があるってことなのかしら」

「十中八九そういうことなんじゃないの」

「(あーちゃん……)」


 みんなが顔を険しくしている中、カナデは一人、葵が言っていたことを思い出していた。


「……圭撫? どうしたの?」

「アオイちゃん、『今日は寝ない』って言ってたんだ」

「(こくこく!)」


 そういえばシントも同じようなことを言っていたと、オウリが頷く。


「は? 何でよ」

「それは……わからないんだけど」

「(こくり)」


 カナデとオウリは、少しだけ申し訳なさそうに視線を落とす。


「でもあの顔色は、絶対に寝るべきだった。みんなもそう思ったでしょ。それでもアオイちゃん、今日は寝ないって言い張ってて……」


「だから俺、無理矢理寝かせたんだけど」と、カナデはさらに続ける。


「俺、アオイちゃんの手を握ったままだったじゃん?」


「あらま!」と興奮気味のキサはさておき。
 ついでに、殺気を向けている男たちもさておき。


「アオイちゃんの手が、ずっと震えてたからなんだ」


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