すべてはあの花のために④
sideシント
完全運転で屋敷に帰ってきたシントは、もう歩けると言い張る主人を抱えて葵の部屋まで帰ってくる。
「もう。歩けるって言ったのに」
「工作工作」
「ん? 何か作るの?」
「え? 今から俺と愛を作るんでしょ?」
「いや、真面目に聞いてるんだけど」
「え。真面目に返したんだけど」
先程までの優秀な執事の顔を通常モードに戻す。すると下ろした葵から、じーっと見つめられた。
「……疚しい心があるか否か!」
「もちろんあるっ!」
自信たっぷりに返したら、葵はがくっと項垂れていたけれど。
「だから、『工作』したんだって」
『お嬢様の体調がよろしくないようなので今日の学校はお休みさせます』&『歩けないほどなので本日は付きっきりでお嬢様についておきますね』のアピールを、遠回しにしていたことを、葵のほっぺをツンツン突きながら教えてあげる。
そもそも道明寺で素になれるところは葵の部屋しかない。屋敷の中こそ、いつ誰が見ているかわからないからだ。
「いや、普通に『そういうことなんです』って言いに行けばいいじゃん? わざわざそんなことしなくてもさ」
「何言ってんの葵。話すのさえ嫌なのに、そんな面倒くさいことするわけないじゃん」
そして、その屋敷中に仕掛けられた監視カメラを逆手に取る、ナイスな作戦である。
「あなた、何しにここで働いているのよ」
やれやれと頭を抱える主人を、気付けば引き寄せていた。
「そんなの、お前のためだけに決まってるじゃんっ」
ぎゅうぎゅうと、自分の温度を分け与えるように。情けなく震える腕で、葵を抱き締める。
「俺を助けてくれたのは道明寺じゃない。葵じゃん。そんな俺の恩人のために、愛しい人のために尽くして何が悪い!」
「シント……」
「今度は俺が助けてやりたいって思うことの、……っ。なにが悪いっ!」
思わず涙ぐむと、頬に彼女の手が触れる。
「悪いことなわけない。シントを隠してくれたのは道明寺だけど、見つけたのはわたしだもん。そう言ってくれて嬉しくないわけないじゃん。……好きになってくれて、ありがとうシント」
「葵……」
甘い声で名前を呼ぶ。
ゆっくりと、彼女に顔を寄せる。