すべてはあの花のために④
何だろ。この負けた感じは
「ありゃま。絶対勘違いしてるよあの人」
くすりと笑いながら、葵はさっさと用事を済ませようと手を動かす。
「(それにしても、シントってあんなに可愛かったっけ? わたしの記憶では、よく叱られてた印象しかないんだけど)」
作業に取り掛かっても、先程までの可愛い執事がちらつくおかげで思い出し笑いが止まらない。
「それにしても、流石に三日間溜めると時間かかるなあ」
今は朝の9時。確実に昼は過ぎてしまうだろう。
「まあ帰ってこなかったわたしが悪いんだけど。……ちょっとでもやっておくべきなのかな」
その辺りの契約は、意外にも酷く曖昧だ。
だから今までは決して違反をしてしまうことがないよう、毎日寝る前に必ず忘れずやっていたのだけれど。
「……ふう。アロマ焚くか」
葵はまず、部屋をアロマの香りでいっぱいにした。
「あと、先に【あれ】もしておいた方がいいかも」
一旦作業を止め、違うことに取り掛かる。
その用事が済んだら、やるべきことに集中。途中でさっきより疲れ果てているシントが帰ってきていたが、葵は黙々と取り掛かる。
「あれ。いい匂いがする」
「集中力切れそうでさ。……大丈夫? キツくない?」
「ううん。大丈夫。……なんか落ち着く香りだね」
シントはアロマを嗅ぎながら、ソファーでだら~と寛いでいた。
「わたしが夜中に電話入れちゃたから眠いでしょ。少し寝てていいよ」
「それは葵も一緒でしょ。俺は大丈夫だから、葵こそ早く用事終わらせて寝なよ」
さっきまでの可愛らしい彼はどこへやら。
けれど向けられるのは心底からの心配で、なんだかくすぐったい。
「う~ん。ちょっと根を詰めすぎると“無理”になっちゃうかもしれないから、休み休みしてもいい?」
「もちろん。そんなに寝てないんだから、まずは“無理”はしないこと。今日は一日そばにいるから。ゆっくりでいいよ」
さっきは早く寝ろとか言ってたくせに、どうしちゃったんだか。
ふふっと笑いながら「それじゃあ気分転換にお風呂戴いてくるね。シントはゆっくりしてて?」と、葵は立ち上がる。入浴の準備をしてくれていたので、それを持って部屋から出て行こうとすると、シントにやさしく手を取られた。