すべてはあの花のために④

sideヒエン


「さあて、それじゃあ家に帰るとするか」

「い、いいんですか?」

「あれだけ言いたいこと言ってくれたんだ。それこそあんたの方はいいのか?」

「行かせていただきます。よろしくお願いします」


 そう言うや否や、葵はさっさと軽トラの方へと歩いて行き車に乗り込んだ。

 そんな葵を見てヒエンは「ガハハ」と笑う。


「(……オウの言うとおりじゃねえか、こりゃ)」



《その子は強くてやさしくって
 すっごい面白い変な子なんだけど
 話がとっても上手なんだあ
 おれなんか足下にも及ばないよー!

 その子のおかげで
 気づけたことがいっぱいあるんだあ》



 これだけ強い女が相手なら、人前で表情を変えられなかった、話せなかったお前が、いろんな顔したり話したいと思うのは当然か。


「(オウの奴、だいぶ惚れ込んでやがんだな)」


 ヒエンは重い腰を上げ、葵が待つ軽トラへと足を進めた。


「遅かったですね、立ちションですか」

「違うわい」


 ドア開けたらすぐだった。
 ……成る程。こっちの方が素か。


「悪ぃな。手放すのは『あいつが結婚する時』って決めてるから、申し訳ないがまだ手放せねえ。まあお嬢ちゃんが、あいつをもらってくれるってんなら話は別だが」


 もちろん冗談で言ったつもりだった。
 しかし、笑っているヒエンとは反対に、葵の表情はとても苦しそうで。


「……え。本気であいつのこと引き取りたかったのか?」

「し、小動物が大好きなわたしにとって、彼は大好物そのものだったので。本当は食べたい……じゃなかった、喉から手が出そうなほど欲しいです」

「いやいや、そう言われたら余計お嬢ちゃんには渡せねえからな?」

「えー……」


 この話から意識を逸らされたことを、ヒエンが気づくことはなかった。


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