すべてはあの花のために⑤
三十六章 修学旅行 最終日

ば、ばっきゃろーッ!


「(……えーっと。わたし、昨日何したっけ?)」


 時刻は朝5時前。葵が目を覚ますと、オカマさんの胸板が目の前にありました。


「(つ、ツバサくんに、お礼の代わりになるものがしたいって言われたから、言えてなかった話をしたまでは覚えてるんだけど……)」


「うーん」と悩んでいると、「んだよ、起きたのか」と、頭上から声が。


「おはよう葵。よくお眠りで」

「えっと。お、おはようツバサくん」

「お前、話の途中で急に寝落ちたからマジでびびった」

「えっ。嘘?!」

「あまりにも急に落ちたから、なんかあったのかと思って焦ったし」

「も、申し訳ない……」

「心配だったのもあるけど、すぐ帰るのがちょっと怖かったから、少し時間が経ったら帰る予定だったんだけど……」

「だ、だけど?」

「あまりにもお前が気持ちよさそうに寝てたから、一緒に寝ちゃった。温かかっただろ?」

「ば、ばっきゃろーッ!」


 メリメリと、ツバサの顔面に葵の拳がめり込んだ。


「ありがとうツバサくん! おかげであったかかった!」

「い、いや。言葉と行動が伴ってな……ガク」

「わー! ツバサくん! しっかりするんだ!」

「人が折角心配してやったのによう。なんで朝からグーパンチ食らわないといけねえんだよ。しかも顔面」

「だ、だから悪かったって」

「しょうがないから、もうちょっとこのままだなー」

「ええ?!」

「だって俺あんまり寝てねえんだもん。もうちょっとしたら起こして」


 ま、まあ。確かに少し早すぎるけれども。


「もう自分のお布団に帰ったらいいんじゃないかな……?」

「今日はここが俺の布団」

「わあー! どっ、どこ触ってるの!」

「え? …………尻?」

「サイッテー! ほんとサイテー!」

「へえへえ。どうせ俺は最低野郎だよー」


 そう言ってもツバサはここから出るつもりもなく、葵を放すつもりもないみたいで。


「……ふう。だったらギリギリまで寝てて?」

「……っ。お前もが、いい」

「わかったわかった。……心配掛けてごめんね? もう急に寝たりなんかしないからね?」

「んっ」


< 114 / 263 >

この作品をシェア

pagetop