すべてはあの花のために⑤
sideツバサ
部屋から出たツバサは、実はまだ葵の部屋の扉に背をつけて考え事をしていた。
「……久し振りに、あんな夢見たな。なんでこのタイミングなんだよ。おかげで……アイツと。重なったじゃねえか」
頭を抱えながら、溜まった息を全部吐ききる。苦しさを全部出し切ってから、ツバサは天を仰いだ。
「……ああ。ちゃんとわかってる。お前が言いたいこと。俺は、頑張るよ。だってお前の、ーーーーなんだから」
握り拳に力を入れ、自分の部屋へと歩いて行った。
そして、自分の部屋に帰って来るや否や、内扉に背をつけて、顔面を片手で覆う。
「……いや。でも、あれはほんと不味いわ。よく襲わなかったな俺……」
かなり冷たくなっていた葵の体に、ホテルの内線で救急車を頼もうかと思ったほどだ。でも、そこで頭を過ったのは、シントとの会話。そして、彼女の残酷運命とやら。
救急を呼んだところで何も解決できないかもしれない。次に思い出したのは、カナデの家で風呂に担ぎ込まれた彼女の苦しげな姿。あの時は、こんな事態だと思ってもいなかったから、思わずいつものノリでペシンと頭を叩いて突っ込んだけれど……。
取り敢えずあたためないとと、部屋の暖房をつけた。ベッドに横たわらせ、体を摩った。それでも冷たいままで、自分の体温を分けるように抱き締めた。
「アイツの体があったかくなるまでって決めてたのに。……寝ながら服掴んでくるんじゃねえよ」
しばらくすると、葵は温かさを取り戻していった。
流石に自室に戻るほどまでは安心できなかったから、せめて椅子にでも座って様子を見ていようと思っていたのだが。
無意識に彼女が掴んでいた浴衣の袖に視線を落とす。どれだけ必死に引き留めようとしていたのか、そこはかなり皺になっていた。
その時の距離と表情と息遣いを思い出してしまい、思わず熱ってしまった顔を冷まそうと、取り敢えず洗面台に直行。
「ぷはっ。……しばらくは平静保てない自信があるぞ、俺は」
大きくため息を吐いて、身形を整え、残りの荷物を旅行鞄へ。
「しかも、カーテン開けながら『おはよう』なんて言われてみろ。俺、ベッドの上だし。しかも、……なんで今日のアイツ。あんな可愛いいの」
ガシガシと、頭を掻きながら変な妄想を払拭しようとしている。けれど最終的に、にやけた顔を隠しながら首を振った。
「カナとかアキよりも暴走してたらいやだ。……あ、でも一番は信人さんか。それなら安心かも」
変なところで気持ちが落ち着いたので、ツバサも朝食までゆっくりすることにしたのだった。