すべてはあの花のために⑤

わたしたちのことは放っておいて!


 朝食の間、2年メンズ組の視線がツバサと葵の方へ向いていて、正直食べた気にならなかった。ツバサに至ってはまだぼうっとしていたので、やっぱり飛行機の中で少しでも寝させてあげることに。

 朝も早かったので、みんなして大欠伸をしながら空港へと向かった。そして【桜特製✿交通費免除の修学旅行券(※一日のみ)】を使用し、飛行機へと乗り込んだ。葵はツバサと隣同士で座る。


「……ツバサくん眠っていいよ? あんまり寝られてないんだし」


 なるべくみんなに聞こえないように囁いたつもりだったのに、直後みんなから思い切り睨まれてしまった。その中には1年生組も。キサはもちろん「え? 何があったのー!」と楽しそうだったけど。


「……い、いいわよ別に」

「でも昨日わたし、ツバサくんのこと寝させてあげられなかったし。体痛くなかった?」

「えっ。いや、別に大丈――」

「どういうこと!?!?」


 流石に我慢ができなかったみんなは食いついてきてたけれど、今回のことはみんなに心配掛けてしまいたくなかったので、何も言わないを徹したのだが……。その矛先が葵ではなくツバサに向かっていて、ツバサは射貫かれそうなほどの殺気を含んだ視線と尋問で、顔を顰めていた。

 だんだんつらそうになっていくツバサに、今度は葵の我慢が限界に。無理矢理彼の頭を自分の方へと引き寄せる。


「ちょっとみんな! ほんとにわたしたちのことは放っておいて!」


 耐えきれなくてそんなことを言ったら、ツバサは「助かった……」と言っていたけれど、みんなは真っ青な顔をしていた。ま、キサは相変わらず楽しげだったけど。



 そのあと空気はどんよりしてしまったけれど、ようやく静かになったので、「寝ていいよ?」とツバサに声を掛ける。


「でもお前は寝ないんだろ」

「だって、わたしはツバサくんのおかげで寝なくても平気だもん」

「……お前も一緒なら寝る」

「え? わたしは別に構わないけど……ツバサくん、今日は男モードなんだね?」


 にっこり笑って言うと、ツバサはちらりと目尻にこちらを捕らえた後、すっと葵の手を握ってくる。


「え、つばさく――」


 驚く間もなく彼の方へと引き寄せられ、もたれかかる姿勢に。
 そのあとツバサは、葵の頭に自分の頭を寄せてくる。


「……はあ。あったけえ……」


 そのつらそうな、でも少し安心したような呟きは、葵には届かなかった。


「ツバサくん? えっと……」

「寝よ。葵」

「で、でもツバサくん、重くない?」

「俺もお前に乗ってるからお互い様。……なあ、頼む。少しだけでいいから」


 ぎゅうと、ツバサが繋いだ手に力がこもる。


「……うん。つらかったら向き、変えてね?」

「大丈夫。……じゃ、着くまでおやすみ」

「はい。おやすみツバサくん」


 そうして、二人同時に目を瞑った。


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