すべてはあの花のために⑤

……だったらここで割るしか


 そしてあっという間に一時間が経ってしまい、観光組も時間いっぱい買い物を結局のところしてしまって、観光は最初の砂浜で終了した。
 ダイビング組も無事に帰ってきて、すごく綺麗だったと、船の中でも那覇に向かう飛行機の中でも大はしゃぎ。


 アキラは、ツバサに頼んだお土産の中に欲しかったお菓子が入ってなかったみたいで、軽く喧嘩していた。

 カナデは、ダイビングした時の海の綺麗さよりも「アオイちゃんの方が綺麗だったよー」とか、可愛いお魚さんがいたけど「アオイちゃんの方が可愛かったよー」とか。そんなのばっかりで、右から左へずっと受け流していた。

 チカゼはほんとに楽しかったみたいで、ヒナタにその海の楽しさを必死に語ってた。ヒナタはそれがあまりにもうるさかったのか、最終的に耳にイヤホンをして逃げていたけれど。

 アカネもオウリにずっとお話ししてたんだけど、さっき言ってたお土産の量の多さにオウリがちょっと怒ってた。でも扱いが上手いのか、手の平の上で上手に転がして、いつの間にかオウリをご機嫌にしていた。その技は是非とも教えて欲しいところだ。


「あっちゃんありがとー!」


 キサに頼まれてたお土産を渡すと、嬉しそうに微笑んでくれた。


「あとこれは、わたしからこのペンダントのお礼」

「え?」


 葵が渡したのは、ピンクとブルーのペアグラス。


「ええ!? も、もらえないよー!」

「えー。……だったらここで割るしか」

「そ、それもできないからもらっておくよう~……」

「わたしの感謝の気持ちだから、よかったら二人で使ってくれると嬉しい」

「絶対使うよ! ……でもそんな、お礼とか。あたしは別に、お返しが欲しかったわけじゃないんだよ?」

「うん。わたしがすごく嬉しくて、どうしても何かしたかっただけなの。だから、受け取ってくれるだけでも嬉しいんだけど……」


 そう言ってふと、昨夜の記憶が蘇る。ツバサの言葉が、頭を過った。


「(……そっか。みんな、こんな気持ちなのか)」


 感謝を受け取ってもらわないと、葵もどこか寂しい気持ちになった。


「(……でも、ツバサくんにも言ったはずだ。わたしなんか、お礼を言ってもらうに値しない人間だと)」


 気持ちはわからなくもない。
 でも葵自身が、もらいたくはないのだ。


< 123 / 263 >

この作品をシェア

pagetop