すべてはあの花のために⑤
sideカナデ
「(痛っ。……ちょっと、さっきからアキ、飴玉投げ付けすぎなんだけどっ)」
背中に刺さってくる視線や飴玉を気にしつつ、自分の手を楽しそうに引いて歩く彼女を見る。
「(……俺がヘタレなのは認めるよ)」
好きで好きでしょうがない子には、どうやったって自分から手を出せない。
……キスなんて、あんなことをしていたらするに決まっている。でもそれは、ただの行為の一つでしかなくて。それも決して、自分からしたことは一度もない。
考えてみれば、ただ奪われてるってことだけど。ヘタレ感増し増しだけど。
「(だって今、俺はアオイちゃんと手繋げられるだけで、十分幸せだから)」
確かに、好きな子の唇を奪われて、キスしたことはないのに半分襲ったことがあるのは情けない話だけど。それは完全に自業自得。
「(さっきのは別に、それが原因で落ち込んでたわけじゃない。自分が情けないって思ってたわけじゃ……悔しがって、自分に腹が立ってたわけじゃないんだよ)」
思わず繋いでいる手に力が入ると、それに気がついた葵が「ん? どうしたのカナデくん。あ! カナデくんの仲間見つけた?」なんて聞いてくるけど、それはもう置いておく。
ぐっと葵を引き寄せて、ほんの一瞬だけ重ねる。
ほんの一瞬過ぎて、気づいた人はきっといないだろう。でも、確かに触れた唇を、葵は真っ赤な顔をして触れていた。
「(あーもう。ほんと可愛いな)」
「か、かなでくんっ……!」
真っ赤な顔でギャーギャー言う葵の頭を、すっかり緩んだ顔でぽんぽんと撫でてあげる。
「俺も攻めないとね。大事だって言ってアオイちゃん取られちゃったら、元も子もないし」
そして、彼女の耳元でそっと囁いた。
「俺からキスしたのは、アオイちゃんが初めてだよ」
真っ赤な顔を必死に隠そうと、彼女は頑張って押さえていた。それでも、繋いでいる手はやっぱり放さないままで。
愛おしさに、このまま攫ってしまいたくなる。