すべてはあの花のために⑤

どうしても、思い出したくなかった


 昼食を終えた葵たちは、アキラを本邸に残し、カエデの運転でデート先へと向かった。

 着いた場所は、海が見えるプリムラの花が辺り一面に咲いている丘の上……墓地だ。
 カエデを車に残し、葵とシランだけ海側の墓前へと足を進める。


「アキラくんのお母様。やっと。……やっと。会いに来られました」


 墓石の『小桜(さくら)』という名に相応しく、墓前にはプリムラが咲き誇っていた。


「きっと小桜も驚いちゃってるから。まずは心の中で、伝えたいことを話してあげてね」

「……っ、はい。ありがとう、ございます。シラン様……」


 葵は墓前の前に屈み、両手を合わせる。
 たくさん、本当にたくさん、アキラの母と話をした。


 そのあと掃除をして、花に水をあげた。


「では葵ちゃん。そろそろ償いをしてくれるかな」

「……はい。何なりと、シラン様」


 葵は胸に手を当て、彼に頭を下げた。


「じゃあまず一つ目。……様はやめて。恥ずかしいから」

「え? しかし、初めてお会いした時は……」

「うん。まあそうだけど。……息子の友達に言われるのはちょっとね」

「……では、シランさんで。いいでしょうか?」

「うん。……小桜もきっと、様で呼ぶなって言ってると思うから。次話す時は気をつけてね」

「わ、わかりました」


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