すべてはあの花のために⑤
もっとちゃんと考えなさいよ
そう言った葵は、どこか清々しい表情だった。
反対に、シランの顔は怒りで満ち溢れていたけれど。
「だ、大丈夫ですかシランさん。なんだかお顔が恐ろしいことに……」
「……信じられないことばっかりで、整理できていなくてね」
「そうですね。きっとサクラさんも、驚いて雲の上で引っ繰り返られていらっしゃるかも?」
仮面は着けたまま。それでも葵は、話せたことで少しだけ心が軽くなった。
「……差し支えなかったら、俺の頭の中の整理を手伝ってくれるかい」
「はいもちろん。言える範囲でしたら」
「ありがとう。それじゃあ一つ目」
――君が言う【異常な赤ん坊】とは、その異常なほどまでによく回る『頭』のことで間違いないかな。
「……頭そのものだけではなく、勘や記憶力、推察力や運動能力に対しても、『秀でている』と一言では到底言い切れないほどには異常でした」
一つ目にしてキャパオーバーしてしまったのか、シランは頭を抱えてしまった。
「や、やめときましょうか。また記憶がおかしくなってしまってもあれですし」
「いや、もう治ってるから大丈夫だよ」
一気に記憶を消去され、廃人のようになってしまったにも関わらず、……六年という長い時間をかけてここまで回復して。……本当に、よかった。
「それじゃあ二つ目にいこうか」
――どうして両親が『そういうことしてた』と知っていたのかな。それは勘?
「父がプレゼントを買っていたのは、仕事部屋に入った時に見つけていました。母の友人に会っていたのは、前から二人が電話をしていたのを聞いていたからです。友人の方にそう言ったのは、その電話があったから。母がホストクラブへ行っていたのは、偶然そのホストの人の名刺を見たから。いつもお酒の匂いを纏って帰ってきたので、きっと楽しく飲んでいたんだなと。そんな軽い気持ちでした」
「頭も勘もよかったけれど、ご両親を怒らせてしまうことまではわからなかったと。ていうかそれ、葵ちゃん全く悪くないんだけど」
「ふふ。……ええ。今ではちゃんと、そう思っていますよ」
シランはぐっと言葉を飲み込んでいた。
『じゃあ、一体いつまでそうだと君は思っていたんだ』
悔しさを表情に滲ませて。
「……わかった。それじゃあ三つ目」
――『黒い感情』『黒いわたし』のことについて。
「……まさかとは思うけど、君は」
その先を尋ねられる前に、葵はふわりと微笑んだ。
「お察しの通りですシランさん。わたしは恐らく」