すべてはあの花のために⑤

流石に戴けません!


「それではシランさん。……また」

「うん葵ちゃん。また、その時は」


 最後に『また』の約束をした葵たちは、車で待っているカエデのところへと向かう。


「……もう、アオイちゃんはずっとそのままなのかよ」

「何を仰っているのかよくわかりませんわ?」


 カエデは心底嫌そうな顔をした。


「失礼ですね。なんですかそのお顔は」

「……無茶言うな」


 寂しそうなカナデに、葵はクスッと笑う。


「ずっとではありません。わたしだって嫌ですから」

「アオイちゃん……」

「カエデさん。改めてあなたに感謝と謝罪を。あなたにも、仕事を頼んでしまっているので」

「いいんだよ。それぐらいお安いご用だから」


 ぽんと、頭の上に手を置かれる。


「何かあったらすぐ言え。皇が全力で、アオイちゃんを守ってやるから。文句言う奴がいても黙らせてやるから」


 隣にいたシランも小さく笑って頷いてくれた。


「……っ、はいっ! とっても、心強いです!」


 二人に深々とお辞儀をした葵は、その後アキラの部屋へと案内された。


「アキラくん、失礼しますね」

「ああ。おかえり葵」


 アキラはベッドの上で何か、分厚い本を読んでいた。


「何を読んでいらっしゃるんですか?」

「ん? アルバムをちょっと引っ張り出してたんだ」


 アキラが見ていたのは、彼らが小さな頃のアルバムだった。


「みっ、見てもよろしいですかっ?」

「え。あ、ああ。どうぞ?」

「ありがとうございますっ!」

「い、いえ。どう、いたしまして?」


 あまりにも勢いが激しかったからか若干引かれたけれど、葵はそれどころではない。キラキラと瞳を輝かせ、アルバムを食い入るように見ていた。仮面を着けるのをすっかり忘れて。


「……嬉しそうでよかった」


 楽しそうに見入る葵の横に座って、アキラも一緒にアルバムを覗いた。


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