すべてはあの花のために⑤

sideカナデ


 そのあとは、ウミガメとイルカとマナティーを見に行った。ぎりぎりイルカショーに間に合いそうだったので、そこから先に行くことに。


「カナデくん早くっ!」

「……っ、待ってよーアオイちゃんっ」


 自分の手を引っ張ってくれる彼女の姿がとても愛らしくて、一瞬抱き締めてしまいそうになったけれど、背中に突き刺さる殺気の視線にやむを得ず断念。

 みんなは急いでイルカショーを見に行った。


「すっごいね! イルカさん頭いいんだ!」

「目が見えなくても、超音波で区別が付くんだってねー」


 ギリギリだったから後ろの方しか席は空いてなかったけれど、前の方の人たちはちょっと水が飛んできたみたい。


「この時期に水掛からなくてよかったね」

「そうだね。ちょっと寒そうだしね」


 そのあとはウミガメを見に行った。


「ウミガメさんって、卵産む時泣いちゃうんだよね」

「そんなことも聞くよねー」


 葵が、優雅に泳いでいるウミガメの水槽に手を置く。


「痛いのかな。苦しいのかな。……そこまでして、どうして赤ちゃん生みたいのかな」

「? 子孫残すためでしょ?」

「ははっ。……うん。そうだよね」

「アオイちゃん?」


 どこか切なそうな葵に、カナデはどうしたのかと問いかけようとした。けれど、それを遮るように「ウミガメってさー」と、葵が話し出す。


「一般の人が飼っちゃいけないって知ってる?」

「……確か、法律で決まってるんだよね?」

「そうそう。……大切だから、お金をいっくら出したって、自分たちでは育てられないんだよ」

「(……本当に。どう、したの。アオイちゃん)」


 みんなも心配そうに見ているけど、次見た時にはころっと葵の表情は変わっていた。


「最後はマナティーだねっ」


 みんなは妙に明るくなった葵のあとを、首を傾げながら付いていく。


「え。マナティーって草食だったんだ」

「ほんとだ。魚食べるのかと思ってた」


 二人して説明文を見ている姿は、どこかマヌケだ。


「……人魚、伝説……」

「ん? 人魚がどうしたの?」


 その時、話が聞こえたツバサとオウリとヒナタは、すっと眉を顰めていた。


「……カナデくんは、人魚姫のお話、知ってる?」

「え? 人間になって、最後は王子様とくっつく話でしょ?」

「ふふ。それ、ちょっと違うかも」

「え。違うの?」

「……人魚姫は、ある王子様に恋をしました」


 それから葵は、人魚姫の話を語る。


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