すべてはあの花のために⑤
ある花、生まれ落ちる
それはある夏のこと。
ある若い二人の夫婦の間に、とっても可愛らしい赤ん坊が生まれました。
若い夫婦は、赤ん坊の誕生を、大変喜びました。
まだ母親の年齢が若すぎたのと、予定日より早く生まれた赤ん坊は、しばらくの間病院に入院することになりました。
ですが、赤ん坊の状態はしばらくすると安定したので、すぐに退院することができました。
新しい命とともに、若い夫婦たちは楽しく暮らしていました。
しかしある日、その赤ん坊の異変に気がつきます。
いいえ。赤ん坊は、最初からおかしかったのです。
その異常な赤ん坊を、若い夫婦は大層不気味に思いました。
若い夫婦はある日、まだ小さいこどもを海に連れて行きました。
「……おかあしゃん? おとおしゃん……?」
こどもは、自分に何が起こっているのかわかりません。
そして、小さな舟のような物に乗せられ、両親にとんと足でその舟を押されます。
どんどん、どんどん離れて行ってしまいます。
こどもは叫びますが、まだ泳ぐことはできず、ただ泣きながら両親を呼びました。
しかしその若い夫婦の顔は、こどもとの距離が離れて行くにつれて、幸せそうな笑顔でいっぱいになりました。