すべてはあの花のために⑤

わたしが独り占めしてたから


 そのあとみんなは、夕焼けの綺麗な海岸の遊歩道を歩いていた。


「(そ、そんな落ち込ませようと思ってたわけじゃないんだけど……)」


 結果的には、みんなは暗い表情をしていた。


 苦しそうな顔やつらそうな顔、悲しそうな顔。
 寂しそうな顔や泣きそうな顔。それから怒った顔。


「(え。お、怒ってるの?)」


 きっと『さっきの話はどういうことなんだー!』とか『なんで振り向いてくれずにマナティーに釘付けだったんだー!』とか。そんなことを思ってるに違いない。


「(そんなにマナティーが見たかったんなら見ればよかったのに)」


 そんな理由では、勿論ないんだろうけれど。
 でも、もうこれ以上は話せない。


「(……ううん。話したくないんだ、他でもないわたしが)」


 少しでも伝わればいいなと、繋いでいる手をきゅっと握る。
 そうしたら案の定、隣からはため息が聞こえ、諦めたような表情に変わっていた。


「ごめんねカナデくん」

「なんで謝るの。謝るようなことしたの」

「だって、マナティーわたしが独り占めしてたから」

「う、うん。確かに、アオイちゃんのところにマナティーがずっといたのは、すごっ!? って思ったけど、それとこれとは話が違うから」

「あ。そうなんだ」

「え。そうだと思ったの?」


 カナデの言葉に、葵はふわりと笑った。

『そんなわけないでしょ?』

 とそう意味を込めて。

 カナデにもそれは伝わったみたいで、すぐに小さく笑い返してくれた。


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