すべてはあの花のために⑤

に、日本式で。お願いします

 ――――――……
 ――――……


「……ん……」

「……さん。あおいさん」


 自分を呼ぶ声が聞こえる。
 でもまだ、目蓋が重くて、目が開けられない。


「あおいさん起きてください。……でないとキスしてしまいますよ」

「……!」


 とんでもない声が聞こえたおかげで、ぱっちり目が覚めた。


「……あ。れ? ここ。は……」

「保健室です。……どこか、痛むところはありますか?」

「え? ……いえ。特には。ない。です……」

「……でも、止まりませんよ。涙が」

「……あ、れ。どう。して……?」


 涙腺が崩壊したのか。拭っても拭っても、涙はこぼれていくばかり。


「英語教室で倒れていたんですよ。私も、なんですけど……どうしてそちらにいたのか、あおいさんは覚えていませんか?」


 そんなの、ちゃんと覚えてるに決まってる。だって、今までのことすべて、忘れたことなんか――……。


「……花の。香り……」

「え?」

「あ。い、いえ。……あれ。な、何故でしょう。ぜんぜん。思い出せません……」

「やはりそうですか。実は私もなんです。クリスマスパーティーをしていたはずなのに、何故こんなところにいるのか……」


 葵だけでなくレンも、ぽっかり記憶が抜け落ちていた。


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