すべてはあの花のために⑤
四十章 聖なる夜に

い、いたたた


 しばらくして、22時を知らせる鐘の音が響いた。
 パーティーは一応終了予定。ほんの少しだけ、物足りなく感じた。


「ありがとうございました。とても、楽しかった」

「……もう、大丈夫そうですか」


 一曲で終わらず、何曲もそのあと一緒に踊った。その間に、葵の涙もようやく止まった。


「はい。ご迷惑をお掛けしました」

「いいえ。……言ったでしょう。私の前では泣いていいと」

「お気遣いありがとうございます。にしても、どうしてわたしは泣いていたのでしょう……」


 けど彼は、何故か切なそうに笑うだけ。


「あまり気にしない方がよろしいかと。余程つらいことがあったのではないかとお見受けしますので」

「……そう、ですね。でも、今日のことは内緒で、何卒お願いします」

「はは。……はい。わかりました」


 二人は互いのプレゼントを持ち、保健室を後にする。


「あおいさんは、このあとのご予定は?」

「あ。わたしは尋問の予定が」

「はい?」


 目を点にして彼が聞き返してくるのがおかしかった。


「そうなりますよね。そもそも、どうしてわたしが尋問されなくてはいけないのでしょう」

「え? 冗談とかではないんですか?」

「何も悪いことはしてないんですけど、どうやらみんなの気に障ってしまったようで……」

「えーっと。よくわかりませんが……が、頑張って?」

「せっかくですし、レンくんも一緒に来ませんか? あなたがいれば心強いんですけど」

「すみません。そう言っていただけて嬉しいのですが、私も今日はもう帰らないと」

「そうですか。それは残念です」


 葵はしょんぼりした。だって、このあと本当に怖いんだもの。

 帰らないといけないというのに、彼は体育館の控え室まで送ってくれた。


「それではあおいさん。また」

「今度お会いできるのは年明けでしょうか」

「そんなに、私と会えないことが寂しい?」

「え――」


 腕を引いて、彼はそっと抱き締めてくる。


「れ、れんくんっ? に、日本式で……」

「きっとすぐですよ。だから、そんな寂しそうな顔しないでください。離れがたくなる」

「……!」


 彼は葵の額にキスを落とし、小さな微笑みを残して帰っていった。


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