すべてはあの花のために⑤
とりもち仕掛けてきた!
その頃キサと葵は、お風呂に入って一緒にキサの部屋にいました。
「キサちゃん。今日は楽しかったねー」
「そうだね! でもまだまだだからね~? あと四日! 全力で楽しもうねっ」
そんな微笑ましい会話をしていると、なんだか嫌な予感が。
「き、キサちゃん。わたし、なんか寒気というか、殴り飛ばしたいような気持ちになってしまった」
「え。全然違うよそれ。……でもちょっと気になってたんだけど、あたしたちの部屋の間、なんで空いてたのかな。キクちゃんではなさそうだったし」
「それだよね。他の階の生徒たちはぎっちり詰まってたわけだよ。それなのに両脇の部屋もさ、空いてたよね」
「それも、三つぴったり」
そうこうしていると、扉の外から「なんだこれっ!」って叫び声が。
「やっぱりな。引っ掛かりやがったぜ」
「え。あっちゃん、何したの?」
「え? 部屋の前にとりもち仕掛けてきた!」
「ほ、本当にしたんだね」
そんな話をしていると、「あーちゃーん。たーすーけーてー……」って可愛い小動物の声が聞こえたので、「これはいかん!」とダッシュで扉へと向かう。
扉を開けると、「取れねえ!」「あーちゃんっ」「……(殺)」と、葵の部屋の前で悪戦苦闘している三人の姿を発見。ですが葵は、すぐにバタンと扉を閉めました。
「え。あっちゃん? 助けに行くんじゃなかったの?」
「いや、今すっごい殺されんばかりの視線が、すでにこちらを睨んでいたのでやめておこうと――」
そして、部屋の奥へと移動しようとしたのですが。
「へえ? 誰に殺されそうだったのか言ってごらんよ」
「ひいっ!?」
ガチャリと開いた扉からやってきたのは、先程目が合ってしまった悪魔さん。おかしいな。彼も確実に罠に引っかかってたはずなのですが、いつの間にか葵は頭を鷲掴みにされておりました。
「ねえ。さっき目合ったよね? 『助けて』って言ってたんだけど。なんで無視したのかな」
「え? わ、わたしには『はあ? 何こんなの仕掛けちゃってくれてんの? コロスっ!』って伝わってきたから、身の安全の確保をしようと思ってですね……?」
と答えつつも、半端ない握力により葵の頭は破裂寸前。
「い、痛い痛い! ヒナタくん脳味噌出てきそう……っ!」
「出たぐらいがちょうどいいんじゃない?」
「それにしても日向。なんであんたは脱出できたの?」
「そ、そうか。出したらちょうどよくなるかな」とか言っている葵に、若干ヒナタの顔が引き攣っていたのはさておき。
「いや、スリッパ脱げばいいだけの話だし」
「あ。ほんとだ。ちょっと待ってて?」
彼は今裸足だった。
「キサちゃーん! 余ったスリッパあるよね! それヒナタくんにあげていいー?」
「あはは! もちろんいいよー!」
何故だろう。いつの間にかヒナタの拘束から逃れていた葵が、クローゼットの下の方を漁っている。ヒナタも驚いていて、先程まで掴んでいたはずの手をグーパーしながら首を捻っていた。