すべてはあの花のために⑤

sideアカネ


「あの時、誰かと話してた。だからあおいチャン、変になちゃったんだよね」

「…………」

「ねえ、一体彼は誰なのかな」

「……彼って。知ってるんだね」

「塀を飛び越えた後ろ姿しかわからなかったけどね」


 けれど彼女から返ってくるのは沈黙だけ。でも、いつもみたいに流されるよりは、よっぽどいい。


「(沈黙は肯定。……だったら)あおいチャンのことを変にした男と、『願い』は関係がある?」


 答えがYesかNoなら、葵が例え答えなくても反応を見ればわかるはず。


「……その二つは、関係はないよ」

「だったら、その男とあおいチャンが『付き合えない』のは?」

「……えっと。何とも、言えない」


 そう答えた葵に、アカネは眉を顰める。


「あおいチャン。もしかしてその男のこと、何も知らないの?」

「……っ」


 彼女は、申し訳なさそうに俯く。
 ということは、誰かも知らないような男に、彼女は変にされたというわけだ。


「その男のこと。何にも知らないから、さっきの質問はそう答えたの?」


 つらそうな顔で頷く葵に、少し踏み込み過ぎたかもしれないと、彼女の頭をやさしく撫でる。


「ごめんね。嫌なこと、思い出させちゃったね」


 一生懸命ふるふると、首を振ってくれる彼女が苦しそうで、アカネは次を最後にすることに。


「(これはおれの勘だし、もし外れてたらあんまり収穫なかったけど)」


 アカネは葵の頬に手を伸ばす。


「あおいチャン。これで最後にするね。今日はだけど」


 そして、彼女の首筋に手を添えた。


「(あおいチャンが嘘をつくことはないって、信じたいけど。それでももし、隠されてしまったら、お終いだから……)」


 ゆっくりと間を取って、アカネはそれを口にした。


「その男と、『ミスコンに出なければいけなくなった』ことは、関係がある?」


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