すべてはあの花のために⑤
ある花、海の魔女と出会う

 あれからどれくらい経ったでしょう。


 必死に手で漕いでも、舟は陸へとは進んでくれません。
 まだ小さかったこどもの体力は、すぐになくなります。


 どんどん陸から離れ、沖の方へと進んでいく舟にこどもはどうすることもできません。


 照りつける日差し、削られていく体力、喉の渇き。


『なんで自分はこんな目に遭わなければならないのだろう』
『なんで自分は、愛してもらえなかったのだろう』


 だんだんと、こどもの中に暗い感情が芽生えてきます。



「……のど、からから……」


 こどもはいいことを思いつきます。
 なんだ、ここにいっぱいお水があるじゃないかと。


 こどもは舟から身を乗り出し、手でお水を掬って口へと運びました。


「……! しょっぱい……っ?!」


 その驚いた勢いで舟が大きく揺れ、こどもは海へと投げ出されてしまいました。


「……ちゅめたくて。きもちいい……」


 こどもは、泳ぎ方を知りませんでした。
 何もせず、ただ苦しくなっていく中、冷たく真っ暗な海の底へと、沈んでいきました。


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