すべてはあの花のために⑤
もうちょっと言葉選びなよ
時刻は10時過ぎ。文化館へとやってきた葵たちは、早速プラネタリウムへ。今の時間だと、季節の星空と一緒に、沖縄に伝わる星に関する民話も聞けるそう。
葵の隣には、嬉しそうなオウリとなんだか疲れているようなツバサが座った。どうやら、葵の両サイドの席を取るのに揉めたらしい。
座れなかった人たちは悔しそうにしているが、そんなところもヒナタに写真を撮られていた。
「(うん。君は絶対に参加しなかったね)」
流石は超低燃費さんだと思いながら、葵たちは室内に映し出される星空と、流れる音声に聞き入った。
『あーちゃん寝ちゃダメだからね?』
そう言ってたオウリは早々に爆睡。
葵の方へ頭を倒して眠ってしまった。よっぽどとりもちを取るのが大変だったと見える。
「(にしてもプラネタリウムって、本当に季節ごとでちゃんと違う空を映し出してるんだ……)」
葵は、綺麗な星空をキラキラした瞳で見上げていた。
「……こういうのにも来たことってないの?」
「うん。そうだね。来たくても来られなかったし」
「他には?」
「え?」
「だから、他にはどんなところ行ったことないのよ」
「……えっと。ほ、殆ど?」
「ほとんど!?」
上演が終盤に差し掛かっている時、頑張って声を押し殺したが、驚きすぎて椅子を蹴り上げてしまったツバサは前列の人に睨まれてしまっていた。でもすぐツバサに悩殺されて、男性は鼻の下を伸ばしてデレデレになっていたけれど。
「ちょっと。ほとんどってどういうことよ」
「こ、こういう施設とか、そういうところとか。逆に行ったことある場所数えた方が早いかもしれない」
「……でも、修学旅行は小学校も中学校も行ったでしょうに。その時はどこに行ったのよ」
「……わたしは、行かなかったんだ」
ただ、それだけを笑顔で言った。
きっと笑えていないことを、ツバサは気付いていただろう。それでも、それ以上は何も聞かないで、ただ「そっか」と。そう言ってくれた。
「ツバサくんはさ、星砂が砂じゃないの知ってる?」
「虫の死骸でしょ」
「え。あなたオカマなんだから、もうちょっと言葉選びなよ」
小さな会話が聞こえたのか、前の人はそれはそれは驚いていた。啜り泣く声も聞こえた。
「まああながち間違ってはいないけど。……その星砂の伝説って知ってる?」
「アンタは知ってるの?」
葵は小さく頷いて、終わりが近い星空を見上げながら話す。