すべてはあの花のために⑤

やっぱり肉食系


 9時頃に沖縄へ到着した葵たちは、一旦この旅行の間泊まる、理事長の知り合いがやっているホテルへと荷物を置きに行った。


「部屋までは持って行かなくてもいいよね?」

「うん! 早く置いて遊びに行こー!」


 今日は今から某水族館へ行って、閉館ギリギリまで満喫しようということになった。


「お。どーみょーじー」

「なんですか朝倉先生」


 そんな呼び方して欲しくないと思いつつ、葵はキクが全然こちらへ来る気配がなかったので、キサに声を掛けてキクのところへ駆けて行った。


「なんっすか先生」

「変わり身早いな流石」

「早くしてください。みんな待たせてるので」

「……お前さん、ちゃんとあいつらといるんだぞ」

「え。迷子の心配ですか。この期に及んで」

「それもあるけどな。……あとどれくらいなんだ」

「……確かなことは。ただもう少ないとしか。わたしもわからないので」

「お前さん、学校休んだ日があるだろう。そのあとトーマのとこに行った日だ」

「え? ええ。それがどうか?」

「あいつら、葬式みたいに暗かったぞ。落ち込んでた」

「……あっ」

「だから、無理にとは言わねえ。ただ、できるだけあいつらとは一緒にいてやって欲しい。あいつらは、お前さんが大好きだからな」

「……わたしも、みんなが大好きなので。できるだけ一緒にいますよ」

「へ?」


 きっと、葵がだんだん離れていくんじゃないかとでも思っていたのだろう。


「わたしはもう、決めつけないことにしたんです。だから今は、今できることを、今を楽しむことをしていくつもりです」

「……そっか。お前さんがそう言ってくれて、よかったよ」


 そう言ってキクは葵の頭をぐしゃぐしゃにする。


「しっかり楽しんでこい。あいつらと、思い出作ってこい」

「あ。今のは先生っぽい」

「どういう意味だっつの」

「ははっ。それじゃあ先生? あなたも楽しんでくださいね」


 そう言って葵はみんなが待つところへと駆けて行った。


「(……いや、こればっかりは流石にオレ、楽しんだら職務放棄になるわ)」


 先程から鳴り止まない通知。
 最初の一通だけ目を通したけれど……。


「(ハートマーク付きで泊まる部屋番号教えろ、つってもねえ……)」


 困った彼女に小さく笑いながら、たまにはいいだろうと。もうしばらくは、気付いていない振りをすることにした。


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