すべてはあの花のために⑤
穴があったら入って埋もれたい
葵は走ります。とにかく走り出したい気分だったのです。後ろからみんなが追いかけてきていても、必死で走りました。流石に今は一人にして欲しいので。
「(さいってえー! ほんと最低ーッ!)」
走りながら自分の頭を、ぽかぽかと器用に殴っていても、誰も葵の速さには追いつけません。
「(バカバカバカー! アホアホアホー! 変態変態変態ー!)」
きっと、周りの人たちには残像にしか見えていなかったでしょう。
「(もうやだっもうやだっ! 穴があったら入って埋もれたい……ッ)」
葵は一体どこへ向かっているのか自分もわからないまま走り続けた。
そして、走って走って、走った結果。
「……あれ? ここはどこだ?」
方向音痴を存分に発揮。今自分がいる場所までわからないという落ちに至る。
「げ。ヤバいじゃん。ここはどこ? わたしは多分あおい……」
多分じゃなくてもそうなのだけど。
それ以外有り得ないのだけども。
「ハハハ。わたしはきっとここで死ぬんだろう。まあ、それも本望と言えば本望さ……」
取り敢えず高い場所に来ていたので、辺りの景色を見渡してみることに。
「あーすごい。城内も城外も向こうの島まで見えるわ~アハハ」
一通り見渡して、蹲った。
「……絶対みんなビックリしてるよね。ビックリで済んでたらいいけど……あ、謝って済まないことばっかりだけど。ゆ、許してくれるかな……」
木の棒で地面をぐりぐりした。
「ちゃんと話したいけど……今は会いたくない。でも、みんなとは、会いたい」
矛盾だらけのこんな気持ち、ハートに吸い込んでもらう。
「きっと原因は、カ〇ピ〇ソ〇ダだ。ウコンの味は思い出したもん」
でも、それ以降のことは全く思い出せなかった。ちょっと悔しい。
「気がついたらベッドの上だったし……あれ? でも、零した感じは全然なかった。体べたべたしてなかったけど……あのあとキサちゃんが介抱してくれたのかな? わたしどうやって部屋に帰ってきたんだろう。というかわたし、アキラくんをおそ、襲っちゃったあと、どうなったか聞いてない……!」
でも、言わなかったということは聞かない方がいいのかもしれない。そう思っていたら、背後から声が聞こえた。
「……っ、はっ。見つけた」
「――!」
慌てて飛び降りようとしたけれど、お腹に腕を回されてそれもままならず。
「ばか! 何してんだよっ!」
「っ。は、はなじでえ~……」
泣いてはない。泣いてはないけど、チカゼに後ろから抱っこされた葵は、じたばたともがく。
「……もう飛び降りようとしないか?」
「とびおりまぜんっ」