すべてはあの花のために⑤
三十五章 修学旅行 4日目
またなまはげになってた
4日目はゆっくり起床。早めのお昼ご飯を食べてから平和記念資料館へ。
小一時間かけて、資料館に着いた葵は、レポートにまとめようと思っていたので、一応メモ用紙と筆記用具を持参してきていた。
「あーちゃんえらいね。レポートしっかり書くんだー」
「うん。学んだことは、きちんと報告しないと。元々修学旅行ってそういうものだしね?」
葵たちは、ゆっくりと戦争の悲劇を、悲しさを、苦しさを、酷さを学んでいった。戦争を体験している人たちが少なくなっている今、自分たちのような、若い人たちにもその実態を知ってもらわなければならない。
【戦争は突然くるものではないこと】
【命の大切さとは何か】
【平和とは何か】
そして……戦争をさせたのは【教育】だと、記されている。
「……教育……」
今と昔では、遙かに考え方が違ってきている。
だから一概には言えないが、恐らく誰しもが、何の不安も恐怖もなかったわけではない。何かを抱えて、それでも戦地に向かえる強い意志を、持っていたのだろう。
もちろん違う考え方もできる。強制的に、その恐怖や不安を消されていた可能性も、ないわけではないだろう。中には、一種の洗脳に近いものもあったかもしれない。
「……命、か……」
蕾のまま枯れようとしている自分と重なる。
命の大切さなんて、考えたこともなかった。今までは。
「(そうすることが当たり前で、わたしは消えていくものだと思っていた)」
でもそうではないと、そう教えてくれたのはみんなであり、自分に関わってくれたたくさんの人たちだ。
「(わたしもある意味、洗脳にかかってた。教育を、されていたんだろうな)」
黒い花を咲かせ、蕾のまま枯れること。
家はそれを望んでいた。それが普通のことだと思っていた。
「……平和って……」
この世に、平和なんてあるのだろうか。
世界中のいろんなところで毎日のように人が殺され、戦争、テロが起きているのに。
「(誰だって加害者に……被害者になり得るんだ)」
葵はぐっと手の平を握り締める。