すべてはあの花のために⑤
性転換しないんだったよね?
あっという間に見学が終わり、葵たちはカフェで一息付いていた。
「アオイちゃん。いいレポートは書けそう?」
「え? いいも何も、わたしは普通に書くよ?」
「アオイちゃんが来たいって言ってたから、何か知りたいことがあったのかなって」
「あー……うん。まあ、ちょっとね?」
「でもあおいチャン、メモ取らなかったんだってね! 大丈夫なの?」
「え? でも、みんなもメモ取ってなかったでしょ?」
「おれらは伝統工芸とかにしようと思ったから、ここでは取ってないだけだよお」
「それでも、そこでも取らなかったでしょう?」
「あ。確かに、そうね」
「それと一緒だから。なんかすごいって言われてるけど普通だからー」
それとなくみんなの意識を逸らし、今の時刻は……15時過ぎ。
「今日はホテル周辺の観光だけだっけ?」
「そうなの! なんか通りも外国ぽくって!」
「ブランドの限定ものもあるらしいわよっ!」
なんだかキサとツバサがはしゃぎだしてしまった。どうやらこの二人が行きたくてしょうがないみたいで、そわそわし始めたので早々にホテル方面へと向かう。
「…………外国、か……」
「…………」
葵の小さな呟きは、誰かの耳にだけ聞こえて、静かに消えた。