身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
無謀な旅立ち
恐れていた通り、一人の大柄な男が、横柄な足取りでこちらへ向かってやってくるのが見えた。
(急がなきゃ)
エリシアはあわてて窓辺から離れると、クローゼットを勢いよく開き、古びた革製のバッグを取り出した。何年も使っていなかったショルダーバッグのフラップを止める革紐が、思いのほか固く結ばれてしまっている。手の震えは焦りでさらに増したが、どうにかこうにかほどくと、なけなしのお金が入った巾着を突っ込んだ。
ショルダーバッグを肩にかけ、がらんとした部屋を見回す。以前はそれなりに上質な家財道具があったが、父が突然の事故で亡くなったあと、お金になるものはすべて売り払ってしまい、今は壊れかけたベッドと小さなテーブルがあるだけだった。
エリシアはテーブルに駆け寄ると、その上に置かれた香水の瓶をつかんだ。これは、父が育てた果実から作った香水だ。
エリシアの父親はもともと、果樹園を営む農民だった。異国から持ち込んだ珍しい果実を育て、その収穫を王宮に献上したことをきっかけに、男爵の爵位を授かった。
しかし、数年前の干ばつにより樹木は枯れ、家計は急激に困窮し、生活費を稼ぐために昼夜関係なく働いた母も、とうとう過労で亡くなった。そうして、ひとり娘のエリシアは一人になった。
エリシアは香水の瓶をぎゅっと握りしめる。そのときだった。家中が震えるほどの力で、戸が叩かれた。
「エリシア、いるんだろ? いつまでも恥ずかしがってないで、出てこいよ」
(急がなきゃ)
エリシアはあわてて窓辺から離れると、クローゼットを勢いよく開き、古びた革製のバッグを取り出した。何年も使っていなかったショルダーバッグのフラップを止める革紐が、思いのほか固く結ばれてしまっている。手の震えは焦りでさらに増したが、どうにかこうにかほどくと、なけなしのお金が入った巾着を突っ込んだ。
ショルダーバッグを肩にかけ、がらんとした部屋を見回す。以前はそれなりに上質な家財道具があったが、父が突然の事故で亡くなったあと、お金になるものはすべて売り払ってしまい、今は壊れかけたベッドと小さなテーブルがあるだけだった。
エリシアはテーブルに駆け寄ると、その上に置かれた香水の瓶をつかんだ。これは、父が育てた果実から作った香水だ。
エリシアの父親はもともと、果樹園を営む農民だった。異国から持ち込んだ珍しい果実を育て、その収穫を王宮に献上したことをきっかけに、男爵の爵位を授かった。
しかし、数年前の干ばつにより樹木は枯れ、家計は急激に困窮し、生活費を稼ぐために昼夜関係なく働いた母も、とうとう過労で亡くなった。そうして、ひとり娘のエリシアは一人になった。
エリシアは香水の瓶をぎゅっと握りしめる。そのときだった。家中が震えるほどの力で、戸が叩かれた。
「エリシア、いるんだろ? いつまでも恥ずかしがってないで、出てこいよ」
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