二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する
学園生活
ーーギル様に出会って恋をしたのは、前世と今世どちらも8歳のときだった。
前世では、ギル様と会う前に将来リンと私どちらかと結婚する相手だと伝えられ、それを聞いたとき頑張って好きになろうと思ったことを覚えている。
ただ、会った瞬間に頑張る必要などなくなった。
穏やかな話し方、温かなまなざし、同い年にもかかわらずお父様に臆せず会話をする姿ーー
すぐに恋をした。
月に数回家を訪ねてきてくれて、その度に3人でお茶を飲んだ。
リンもギル様も普段は婚約者などということは考えていない様子で、和気あいあいと友人同士のようにしゃべっていた。
意識をしていたのは私だけ。
少しでも好かれようと意識した。
リンより、リンより、と…
そんな私の浅ましい努力が裏目にでたのか、
そもそも努力することも無駄だったのか、
会うたびにギル様の気持ちがリンに傾いていくことがわかった。
そして次第にリンも…
悲しくてみじめで、何とも思ってないふりをしても本当は苦しくて、苦しくて…
誰にも気づかれないようベッドで泣いた夜は数えきれない。
気持ちを押し殺すのがうまくなってきたころ、私とリンは社交界デビューのため、王都の侯爵邸に来ていた。
お父様は私のパートナーにギル様を指名し、リンのパートナーをお父様が務めた。
私はそれがたまらなく嬉しかったことを覚えている。
「ギル様、お父様」
私とリンがドレスアップして玄関に出ると、ギル様とお父様が待っていた。
「キレイになったな。ハナ、リン」
「ありがとうございます。」
「デビューおめでとうございます。ハナ様、リン様。」
ギル様が深く礼をし、私たちはカーテシーで礼を返す。
「ハナ様」
突然私個人に向けられたセリフに心臓が高鳴る。
「はい」
「僭越ながらパートナーを務めさせていただきます。
お美しいハナ様とご一緒できますこと、嬉しく思います。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
頬が熱いまま、差し出されたギル様の手をとる。
その瞬間、ギル様が耳元で囁いた。
「本当にお綺麗です。さらに緊張してしまいます。」
お世辞かもしれない。
きっとそうだったんだろう。
それでもいい。
間違いなくこの瞬間が前世の私にとって最も幸せなときだった。
本当に、最も幸せなときだった…。
ーー今世では
「初めまして、ギルバート・ウエストン様」
「初めまして。ハナ・ロンド様、リンネット・ロンド様。」
今思うと不思議だわ。
恋に落ちるときの感情は再現できるものなのね。
一目で恋に落ちて、記憶を取り戻したときにはもう…
手遅れだった。