二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する
邂逅
リンはいつも私の目標だった。
社交的で、勉強熱心で賢い上に可愛らしい。
私は私のことがあまり好きじゃない。
人と話すのが苦手だし、キツく見られる目つきもイヤ。
リンより優れているところが見つけられない。
だから私にとって唯一才能と呼べる剣術を、
リンに勝てるその唯一を必死に守ろうとした。
そんな私の卑しさに全く気づかず、リンはいつも私を慕ってくれる。
今世も前世も。
リンの純粋さが本当に本当に大好きだけれど、ひどく虚しさを感じるときがある。
だって、私の一番ほしいものは手に入らない。
それはどんなに頑張ってもリンのものだから。
仕方ない。
諦めたくない。
ただの憧れよ。
これは紛れもなく恋だわ。
リンとギル様が幸せならそれでいい。
リンがいなければ…
私はこんなことを考える自分が大嫌いだ。
こんな私とは違い、リンは明るい世界で幸せに生きていくものだと思っていた。
なのに…
✳✳✳✳✳
ショックは引きずっているものの、なんとか泣き止み、ひとまずロイとテーブルをはさんで座った。
VIPルームには私たち以外訪問者はいないようで、話を聞かれる心配もない。
「それで、ロイの記憶はいつから…?」
「子供の時だな。初めてギルバートと会ったとき思い出した。」
「じゃあ私と最初に会ったときは記憶があったのね。」
「まぁな」
じゃあやっぱり今までの奇行は私をからかっていただけなんだわ。
文句を言いたい気持ちをグッとこらえ、話を続ける。
「ギル様は?」
「何も覚えていないみたいだ。リンは?」
「リンも覚えていないはずよ。」
「そうか…」
「ロイの…最期はどんなだったの?小隊のみんなは?」
「全滅だ。」
その言葉に私は口許を手で押さえる。
「俺も最期は満身創痍であまり覚えていないが、援軍が着く前に孤立無援となり誰かにやられた。」
「…」
「それよりも、記憶が戻っているなら、まず言いたいことがあった。」
ロイは椅子から立ち上がると、深く頭を下げた。
「すまない。」
「どうして謝るの…?」
「覚えていないかもしれないが、ハナにとどめを刺したのは俺だ。」
「…」
「俺がハナを見つけたとき、足が…
いや、間もなく絶命するような状態だった。
苦しむ姿を見ていられなかった…」
「覚えてるわ」
顔を上げたロイは驚いたような表情を浮かべている。
瞳がうっすら濡れていた。
「よくそんな相手と普通に話せるな」
「ロイが本当に優しいことも覚えてるもの。」
「俺が詐欺師だったらどうするんだ。」
「フフッ、似合わない。」
ロイは再び椅子に座り直した。
ホッとしたような表情に変わっている。
長年罪の意識を背負わせていたのね…。
その荷を下ろせただけでも、記憶が戻ってよかったわ。
「でも…私を刺したあの小刀は?
リンの魔力を感じた。」
「ああ。王都でリンとギルバートと4人でレストランに行っただろ。
あの日、帰り際2人の時に渡されたんだ。」
「あの時…」
レストランで2人が個室から遅れて出てきたことを思い出す。
「痛みを与えない魔術を施してあると言っていた」
「確かに、痛くなかったわ。
まぁもともと感覚はほとんどなかったけれど…」
「リンはどういうつもりであの小刀を俺に渡したのか考えてた。
苦しむ戦友へのとどめを刺す場面を想定したのか、敵兵への慈悲か…」
「リンは賢いけれど、戦場のことなんて想像もできないはずよ。」
「だろうな。やはりリンは不自然だ。」
「へ?」
「今世で魔術について長年調べてきたが、祈り文などという魔術は聞いたことがないし、先読みしたような小刀のことも気になる。」
ロイは私の目をじっと見据えると、真剣な眼差しでさらに言葉を続けた。
「俺はこの生まれ変わりの真実が知りたい。
魔術によるものであることは確かだけれど、誰が、なんのために、どうやって、俺たち4人を転生させたのか知りたいんだ。
協力してくれないか、ハナ」
「私も気になってたから、ロイが調べなくても私がやっていたわ。」
「そうか…」
「ただ1つ条件があるわ!
今後私をからかって口説くようなマネはやめてちょうだい。」
「ほう、どうして?」
意気揚々と告げたのに、質問形で返事が返ってきたから慌てる。
「え、どうしてって…からかわれるのはイヤだもの。」
「…」
ロイは立ち上がり、私を包み込むように抱き締めた。
「なっ、何を!やめてよ!」
「…」
「私はぎ、ギル様のことが…!」
ロイはさらに抱き締める力を強めた。
「生きて帰してやれなくてすまなかった。
よく戦ってくれた。ハナ。」
「っ…」
急に何よ…。
隊長面して…
止めていた涙がまた溢れだしそうになったとき
「ま、せっかく生まれ変わったんだし、今世ではもう少しお嬢様らしくなれるといいな。」
からかう口調でそう言うと抱き締める腕をパッと離した。
「なっ!!失礼な!!」
私のパンチをヒラリと華麗に交わしたロイは、もういつものにやけ顔のロイだった。
しょうがないから今回だけは許してあげよう。
もう一度ロイの笑顔が見れたんだから。
こうして、転生の真実を知るための私とロイの共同戦線が幕を開けた。