二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する
愛剣
ーー剣術大会の翌日、緊張の面持ちで学園の門をくぐった。
「ハナ、今朝からソワソワしてない?」
口許に手を当て、ニヤニヤしながら私の顔を覗き込むリン。
これは気づかれてるわね…。
リンはずっと私とロイを恋仲にしようとしていたものね。
恥ずかしいけれど言わないと…
「リン…実は…「ハナちゃーん!」
遠くから私を呼ぶ声で私の勇気は遮られた。
声のした方を向くと、大きく手を振るセロン様がいた。
「おはようございます、セロン様」
「おはよう、ハナちゃん。
…君は昨日も観客席にいたね。」
セロン様がリンに視線を向ける。
「初めまして、リンネット・ロンドと申します。
ハナの妹です。」
「…」
「セロン様?」
「失礼。セロン・アルケットだ。よろしく。」
「よろしくお願いいたします。」
リンはいつも通りの明るい笑顔で挨拶をした。
「あ、そう言えば…」
そう言ってセロン様が振り返った先に釣られて目を向けると、ティボー様が歩いて来るのが見えた。
ティボー様を置いて走ってきたのかしら…
なんだか無邪気な人ね…。
私は先輩…しかも貴族相手にほほえましい気持ちになり、バレないよう咳払いでごまかした。
「セロン、急に走るな。」
追いついたティボー様はセロン様に軽く文句を言う。
「すみません…」
「ハナ殿、昨日はお疲れ様。」
「お疲れ様でした。改めて大会に出場させていただきありがとうございました。」
「フェルミナを出場させたのは失敗だったかもしれないですね。」
冗談ぽくセロン様が口を挟んだ。
「フェルミナくんには完敗した。
自分の剣術の浅さを思い知ったよ。」
「ティボー様…そんなことは…」
「ハナ殿の必死さにも俺は負けたな。」
「い、いえ!あのような野蛮なことをして申し訳ありませんでした!」
「左手は大丈夫か?」
ティボー様が私の左手に触れようと手を伸ばしたとき、私とティボー様の間に誰かが割り込んできた。
「おはようございます、ティボー先輩。」
「フェルミナくん…」
「ロイ!」
作り笑いを浮かべているが、眉間にシワが寄っていて、不機嫌さを隠しきれていない。
「触んないでもらっていいですかね?」
「ハナ殿の怪我の様子を見ようとしただけだ。
君はハナ殿の保護者か?」
「違いますよ。」
ロイは呆けている私の右手をぎゅっと握った。
リンの目がすかさず輝くのを私は見逃さなかった。
「ハナは俺の恋人です。」
「っっな!!」
恋人!?やっぱりそうなの!?
想いを伝え合って、キスもしたけれど、恋人になる約束はしていなかったと、昨夜散々悩んだ私って…
「ハナ!おめでとう!」
リンは先輩たちのことなどお構いなしに私に抱きついた。
「…ありがとう…」
思わず感謝の言葉が出てしまう。
だって、それほどリンの好意はまっすぐで愛らしい。
「それは失敬。知らなかったんだ。」
「以後近寄らなくていいです。」
「ちょ、ロイ!失礼でしょ!
すみません、ティボー様…」
ティボー様は私が謝ると軽快に笑い飛ばした。
私はこわばる広角を斜めに吊り上げて見せた。
セロン様と同じくおおらかな方だわ。
ティボー様は悪い方じゃない。
わかっているけれど…
ロイの言う通り、私はティボー様を好きになることはできないんだわ。
だけど、嫌いではない。
そんなちぐはぐな感情でも今はいいのかもしれない。
「そういえば先生から伝言があったんだ。ハナ殿。」
ティボー様が思い出したように私に向き直る。
「なんでしょうか?」
「君宛に剣士科を訪ねられた客人がお待ちだ。
剣士科の来賓ブースにお通ししている。」
「私…ですか?」
昨日の大会で軍部のお偉いさんがスカウトにいらっしゃることがあるとは聞いていたけど、私?
優勝したロイなら十分わかるけれど…
「場所が分からなければ案内しようか?」
「セロン様、ありがとうございます。」
「そんなに睨むくらいなら君も来賓ブースの前まで一緒に来るといい。」
私の後ろに立つロイにセロン様は言った。
私の背後で睨みを利かせるのはやめてほしい…。
ちょっと恥ずかしいわ。
ロイがこんなに嫉妬深いなんて知らなかった。
でもそんな発見1つ1つが嬉しくて、昨日から浮かれっぱなしだ。
「では行こう。」
私はリンに手を振り、ティボー様にお辞儀をして剣士科棟へ向かった。