二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する
アイダの魔術


俺の生まれは魔術大国オルディアナだった。
当時、侵略戦争を国策として推し進めていたコロニス王国の最初の餌食となった国だ。
魔術の研究が進み、国民にも魔術が使える人間が比較的多かった豊かな国ーー
そんな叡知で栄えた国は大国コロニスの武力に呆気なく敗北した。

当時20歳で国家魔術師団の一員として参戦していた俺は、敗戦後コロニス軍に捕らえられた。
息つく間もなく襲いかかる絶望でよく覚えていないが、何かの列に何日も並んでいたことだけは鮮明に覚えている。
当時どこへ向かうのか知らされていなかったけれど、行列の行き先はなんとなくわかっていた。
日に日に濃くなる血肉の臭い、悲鳴、パニックになる仲間ーー
俺が並んでいるのは処刑台の列だった。

当然だ。敗国の兵士だ。殺されるに決まっている。
分かっている。わかっている。わかってる
けど…

俺はどうやったのか覚えていないが、そこから逃げ出した。
走って走って、走って走って、国境を越え、
俺はアイダという小国にたどり着いた。
魔術を使う余裕などなかった。
心身に余裕がないと魔力が産み出せないのはもちろん、背後に死が迫る局面では人間は本能で走って逃げることしかできないのだと知った。

とにかく命からがら逃げ着いた国で、初めて会ったのがアイザック・セレスティーナ子爵だった。

この出会いは俺にとって奇跡だったと思う。

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