二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する
未来
翌日、リンは無事目覚め、軍の事情聴取も一段落ついたため、私たちはそれぞれの家に帰れることになった。
アルウィンは後日ティボー様が迎えにいき、事情聴取をするらしい。
今回の事件については限られた人のみ知る機密事項として扱われることになった。
アイダの無償の魔術と転生、未来視、若返りは世間に明かすといらぬ騒ぎを招きかねない。
リンとギル様には金銭目的の誘拐だったと伝えていて、両親含め当事者以外には事件があったことすら明かしていない。
ギル様にはこのことを必ずしも伝える必要はなかったけれど、どうしてもと私がティボー様にお願いした。
真実は伝えられないけれど、ギル様も心配する権利があるわ。
この事件は転生という私たち4人に深く関わるものをめぐっていたから。
「リン!!」
基地を出てすぐにギル様が私たち…いや、リンのもとに駆け寄った。
その目の下にはくまがある。
きっと昨夜知らせを聞いてから、一晩中リンを心配していたんだろう。
「ギル様、心配をかけてごめんなさい。」
「無事ならいいんだ…」
抱き合う2人を見て、自然と笑みがこぼれた。
リン、あなたの未来は幸せに包まれているわ。
だから安心して。
「先に行きましょう、ロイ」
「そうだな」
私たちは迎えの馬車に乗りこんだ。
傍らには前世の剣がある。
もう魔術の痕跡は一切消えたと判断され、持ち帰ることを許された。
「ハナ…家に帰る前に少し時間はあるか?」
「ええ、パパたちには友人の家に外泊していると連絡しているし少し遅れても大丈夫よ。」
「そしたら2人で話そう。」
「ええ…」
私たちの目標だった転生の真実は知ることができた。
だけどそれはロイにとって、リンの自分勝手な都合を押し付けられた結末と言っても過言ではない。
私には姉としてロイの気持ちを受け止める義務がある。
私たちの家への道中で馬車を停めると思ったが、ロイは王都から2時間ほど離れたところにある田舎町に馬車を向かわせた。
「ここで停めてくれ」
着いた場所は特に見覚えがなく、のどかな農村だった。
「ロイ、ここは?」
「前世の俺の故郷だ。」
「ロイの…」
そうだわ。ロイは農民だったと前世で言っていた。
「前世の実家を訪ねてみたくなった。」
「…」
それはきっと、終戦後も生きるセロン様やアルウィンと会ったからだろう。
数少ない民家の中のひとつをノックした。
おもむろに扉を開けたのは老婆だった。
「…どちら様ですか?」
「こちらはクリゾンテム殿のお宅でしょうか?」
「いいえ…」
「では、以前の家主をご存知ありませんか?」
「私が30年前にこの村に越してきたときには空き家でした。」
「そう…ですか…。失礼いたしました。」
ロイは頭を下げ、ため息混じりにその家をあとにした。
「ロイ…」
「きっと小隊長だった俺の家族は、一族全員殺されたんだろうな。」
「…」
「あの川のほとりに行ってみないか?
そこでよく農作業をサボっていたんだ。」
「ええ」
ロイについていくと、穏やかなせせらぎを奏でる小川にたどり着いた。
「キレイね…」
「ああ、心が落ち着いて好きだった。」
前世で農作業をするロイを思い浮かべてクスリと笑う。
だけどアイダでの平和な日々は壊れてしまった。
私は意を決して尋ねた。
「ロイ…転生させられたこと、憎んでる?」
「そう思うか?」
「…人の命を理から外した行為だもの。
神様の怒りを買って、死後地獄に落ちるかもしれないわ。」
「ハハ…そうかもな。」
ロイは気にしていない様子で笑った。
「俺はな、今世でハナに会えたとき、転生させてくれた神様に心の底から感謝したよ。」
「え…」
「結果神様がリンだっただけで、その気持ちは変わらない。」
「死んで地獄に行くかもしれないのよ?」
「あの戦場以上の地獄はねぇよ。
想いも伝えられないまま、他の男を想う好きな女にとどめを刺す…
今世でお前と気持ちが通じ合って、俺がどれだけ救われたか…今が幸せか…」
ロイが震える声でそう言った。
私はロイの手を強く握った。
この人を…もっと幸せにしたい。
たとえ地獄に落ちるとしても、生きてるうちは幸せでいてほしい。
「ロイはもっともっと幸せになるわ。」
「ああ」
「私も…転生してよかった。」
ロイは重ねた私の手を下から包み込んだ。
引き合うように唇を重ねる。
穏やかで愛おしい時間…
この時間を守りたいと私は強く願った。