【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

68.秘めたる想い


 アレクシスの語った内容はこうだった。

 クロヴィスは長いこと、ルクレール侯爵について調べていた。国内の大きな事件を調べているうちに、その背後にルクレール侯爵家の存在があることに気付いたからだ。

 結果、侯爵は十五年以上も前から、人身売買や密輸など、ありとあらゆる不正に手を染めていたことが判明した。
 帝都内で定期的に起こる孤児院の火災は、子どもたちを他国へ売り飛ばすために人為的に起きたものだったし、金の密輸にも当然関わっていた。

 それらの証拠を、クロヴィスは全て調べ上げた――それが丁度一年前のことだ。

 けれどクロヴィスは、すぐに告発しようとはしなかった。
 ルクレール侯爵の権力は皇室と言えど無視できないほど大きく、当然のことながら、不正は侯爵家単独で行われているのではなく、多くの家門が関わっていたからだ。

 そんな中、その中心的な家門を潰せばどうなるか。統率者を失った組織が表の世界にまで魔の手を伸ばす恐れがある。それ以前に、潰そうとすればこちらも無事ではいられない。

 そもそも、ルクレール侯爵領はあまりにも広大であるし、不正や悪事をしていることを除けば(それが最大の問題なのだが)侯爵の政治手腕は確か。失うのは、あまりにも損失が大きすぎる。

 ――ならばどうするか。殺すのではなく、飼いならせばいい。

 そう結論づけたクロヴィスは、ずっと機会をうかがっていた。

 不正は正さねばならない。悪事は滅せねばならない。その為の見せしめが必要だ。
 だが、決して首は落とさぬように――その為に、今回(リアム)の件を利用したのだ。
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