紳士な外交官は天然鈍感な偽りの婚約者を愛の策略で囲い込む
5.もしかして、私のこと好きですか?

トントン拍子に始まった結婚生活は、意外にも順調な滑り出しとなった。

日本に戻ってきて二ヶ月も経っていない伊織は恐ろしいほど忙しそうで、朝は千鶴以上に早く出勤し、夜は千鶴が眠った後に帰って来る日も少なくない。

けれどひだかで両親に結婚の約束を取りつけて以来、週末は千鶴との時間を作ってくれた。千鶴は結婚後もひだかで働き続けているけれど、伊織との時間を確保するため、日曜日の定休日の他に土曜日も休みにさせてもらっている。

休日は新居に足りないものを買いにいったり、おいしいものを食べに行ったりと、伊織から提案されて外に出かけることが多い。

彼と本当の夫婦になりたいと願う千鶴としては嬉しいけれど、多忙な彼を間近で見ているため心配でもある。

「お待たせしました」

リビングのソファで寛いでいた伊織に声を掛けると、彼は千鶴を見て目を細める。

「それ、この前買ったやつ?」
「はい。せっかくだから、伊織さんとのお出かけの時に着たくて」

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