紳士な外交官は天然鈍感な偽りの婚約者を愛の策略で囲い込む
2.運命の出会い

半年前の四月中旬。千鶴は懸賞で当たったペア旅行券でフランスへと飛び立った。

本当は友人とふたりでツアーに申し込んでいたけれど、前日の夜に彼女が発熱したため急遽ひとりで参加することになったのだ。

とはいえ、日本の旅行代理店が企画したツアーなのでなんとかなると楽観視していた。昨日はツアー客のうちのひとりが観光途中で体調を崩すというトラブルが発生したものの、実際なんの問題もなく楽しんでいる。

そんなツアー四日目。今日は団体での観光ではなく、各自自由行動の日で、千鶴もひとりでパリの街を散策していた。

すると突然、片言の日本語で声をかけられた。

「アナタ、日本人デスカ?」

驚いて振り返ると、若い女性が眉を下げて立っている。身長は千鶴と同じくらいだが、顔つきは幼さが残っていた。女性というよりは、まだ女の子と表現した方がしっくりくるような容貌だ。

「そうですけど――」

戸惑いながら頷くと、女の子は一瞬嬉しそうに瞳を輝かせ、早口で捲し立てる。

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