氷壁エリートの夜の顔
第16話 雷の夜
シャワーを終えてバスルームから出ると、結城さんはソファに腰を下ろし、ビジネス雑誌を読んでいた。表紙には、落ち着いた微笑みの奥に自信をにじませた、東條忠宏の写真。
その姿は、当たり前だけどオフィスラウンジで見かける結城さんと変わらなくて、私は少しほっとする。
「お風呂、お先にいただきました。どうぞ」
そう声をかけると、彼は顔を上げ、「ありがとう」とだけ短く答えて雑誌を閉じた。
結城さんがシャワーを浴びる音が聞こえてくる。
私は落ち着かない気持ちを紛らわせるように、窓辺に歩み寄った。
空は、さっきよりも重く沈んでいる。私は無意識に息を呑み、カーテンの端を強く握りしめた。
雨粒が一つ、窓ガラスを叩く──それを皮切りに、雨脚が急激に強まっていく。
そして──遠くで低く唸るような音が鳴った。腹の底を揺さぶるような、重く濁った響き。
瞬間、閃光が走り、私は反射的に顔を覆った。
まぶたの裏に焼きついた光が、あの記憶を呼び起こす。
食器とガラスが一斉に砕け散る音。
壁を裂くように響く怒鳴り声。
泣き叫ぶ、母の悲痛な声。
──何もできなかった自分。
その姿は、当たり前だけどオフィスラウンジで見かける結城さんと変わらなくて、私は少しほっとする。
「お風呂、お先にいただきました。どうぞ」
そう声をかけると、彼は顔を上げ、「ありがとう」とだけ短く答えて雑誌を閉じた。
結城さんがシャワーを浴びる音が聞こえてくる。
私は落ち着かない気持ちを紛らわせるように、窓辺に歩み寄った。
空は、さっきよりも重く沈んでいる。私は無意識に息を呑み、カーテンの端を強く握りしめた。
雨粒が一つ、窓ガラスを叩く──それを皮切りに、雨脚が急激に強まっていく。
そして──遠くで低く唸るような音が鳴った。腹の底を揺さぶるような、重く濁った響き。
瞬間、閃光が走り、私は反射的に顔を覆った。
まぶたの裏に焼きついた光が、あの記憶を呼び起こす。
食器とガラスが一斉に砕け散る音。
壁を裂くように響く怒鳴り声。
泣き叫ぶ、母の悲痛な声。
──何もできなかった自分。