氷壁エリートの夜の顔

第27話 16年前

 カーテンの隙間から、柔らかな朝の光が差し込んでいた。
 こんなに深く眠ったのは、いつぶりだろう。

 まぶたを開け、布団の中でゆっくりと大きく伸びをする。
 そのとき、自分が何も身に着けていないことに気づき、慌てて体を起こした。

 そうだ、昨日、結城さんと──。

 けれど、部屋には誰の気配もなかった。

 まさか……美玲の言っていたように、現実と妄想の境界が曖昧になってきたのだろうか?

 服を身に着け、部屋を見回す。
 結城さんのコートと靴は見当たらない。でも、バッグとスーツのジャケットはそのまま残されていた。

 ──少なくとも、妄想ではなさそうだ。

 喉が渇いていることに気づき、キッチンへと向かった。
 冷蔵庫を開けて、グラスに水を注ぐ。それを一気に飲み干すと、少しだけ心が落ち着いた。

 そのとき、玄関の鍵が回る音がして、コンビニ袋を手にした結城さんが現れた。

「ごめん。玄関に掛かってた鍵、ちょっと借りた」

 その声を聞いた瞬間、私は思わず肩の力を抜いた。
 彼はビニール袋を掲げて、言葉を続ける。
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