氷壁エリートの夜の顔

第28話 お弁当

 目を開けると、今朝は──ちゃんと、颯真さんが隣にいた。
 私に腕を回したまま、長いまつ毛を伏せて眠っている。静かな寝息に合わせて、胸元がゆっくり上下していて、そのリズムがやけに心地よかった。

 私はそっと目を閉じ、昨夜の記憶を静かにたどる。
 思い出した瞬間、頬が熱くなった。

──あんなふうに誰かを求めたのは、初めてだった。

 重なる体温、肌をすべる指先、見つめ合うたびに深く落ちていくような視線。
 心の奥まで熱で溶かされるようで、少し怖いくらいだった。

 それでも──私は自分から手を伸ばしていた。
 もっと強く、もっと深く、颯真さんが欲しいと願いながら。

 なんだか恥ずかしくなって、ベッドから抜け出そうと、そっと彼の腕を持ち上げる。
 だけどその瞬間、強く引き寄せられて、彼の胸の中にすっぽりと包まれた。

「……どこ行くの?」

 かすれた声。いつから起きていたのか、彼は目を閉じたまま、私を抱きしめていた。

「……服を、着ようと思って」

「だめ。もうちょっと、このままでいて」

 そう言って、彼は私の髪に頬を寄せた。
< 194 / 206 >

この作品をシェア

pagetop