氷壁エリートの夜の顔

エピローグ

「はい、お待たせ。塩尻名物・山賊焼定食と、今年最後のコーヒー柿ようかんです」

 祐介くんは満面の笑みでトレイを受け取り、勢いよく割り箸を割る。

「これこれ、最高の組み合わせ! まずは柿ようかんから……」

 そう言って、木のフォークでそっと切り分けた一片を口に運んだ。

「……うんまいっ!」

「祐介くん、柿ようかんから行くんだ」

 京花さんが笑いながら言う。

「デザートにはスパイス柿ようかんをいただく予定なので、これは前菜です!」

「前菜……」

 私は思わず吹き出した。

「でも咲ちゃん、よかったね。お母さん、なんともなくて。それに……」

 京花さんが少しだけ言いよどむ。私は笑って、続きを引き取った。

「はい、父親から、きっちり養育費ぶんどってやりましたから」

 そのとき、祐介くんの隣から「ちょっと、咲、おかわりちょうだい」と声が上がり、空になったジョッキがカウンターに置かれた。

「これ、七味かけると立派なおつまみになるじゃない。来年は、『七味唐辛子柿ようかん』、メニューに入れてちょうだい」
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