氷壁エリートの夜の顔

第8話 「ほうとうも、好きです」

「お姉ちゃん! こっちこっち!」

 土曜の午後。駅まで迎えに行った私を見つけて、柚月(ゆづき)が大きく手を振った。その隣では律希(りつき)が風呂敷包みを抱えて立っている。私はふたりのもとへ駆け寄った。

「わ、あんたたち……ちょっと背、伸びた?」

 そう声をかけると、律希が軽く笑った。

「前回会ってから、3週間しか経ってないよ。気のせい、気のせい」

 その横で、柚月が腕を組んで律希を見上げる。

「……でも、私もそう思ってた。りっくん、なんか最近、ぐんって伸びた感じするんだよね。だからかな、最近ちょっとモテててるみたい」

「モテる? 給食のグリーンピースが食べられなくて、ポケットに隠して持ち帰ってきた律希が? ……姉ちゃん知らなかったよ……!」

「もう、いい加減忘れてよ!」

 律希がちょっと赤くなって言うと、柚月がにやりと笑って、わざとらしくうなずいた。

「この間、クラスの女子に『彼女いるの?』って聞かれてたもんね。私、ちゃんと聞いてたからね」

 その視線を受けて、律希が口をへの字にして小声でつぶやいた。

「ゆづちゃん、姉ちゃんに余計なこと言うなって」
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