氷壁エリートの夜の顔

第12話 「好きな人とじゃないと、考えられない」

 ラウンジは、雨のせいかいつもより人が多く、にぎやかだった。
 私はいつものお弁当、美玲はフードトラックで買ったガパオライスをテーブルに広げている。

「ガパオライス、いい匂い。バジルで炒めるんだっけ?」

 そう尋ねると、美玲は目玉焼きをスプーンで割り、ライスと一緒に私のお弁当箱の蓋の裏に取り分けてくれた。
 その横には、私が持ってきた煮物がちょこんと置かれている。

 美玲は私の煮物が大のお気に入りだ。だからこうして彼女の分まで多めに持ってくるのが最近の習慣で、代わりに彼女はテイクアウトのお裾分けをしてくれる。

「うん。でも本場では、ホーリーバジルっていう種類なんだって」

「ホーリーバジルか……乾燥させればお茶にもなるよね。ベランダのプランターで育ててみようかな」

「さすが咲、生活力が高い!」

「女子力とは言ってくれないんだ」

 笑い合っていたところに、八木さんがフードトラックのランチボックスを片手に現れた。

「やあ、桜さんと高橋さん。君たち、パクチーの香りに寛容なタイプ?」

 私と美玲は顔を見合わせてから、「大好きです」と答える。
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