氷壁エリートの夜の顔

第2話 氷壁エリート

「プロジェクト概要の資料です」

 大きな窓のあるミーティングルーム。私はノートパソコンと資料を前に、静かに口を開いた。向かいに座るのは、今日からプロジェクトでペアを組むことになった相手──結城颯真。

「まず、A社との契約は来月頭が期限で、延長交渉の鍵がこのシミュレーション結果に……」
「要点だけで結構です。グラフは自分で読みますので」

 言葉を遮られ、息が詰まる。
 刺すような声ではなかったけれど、そこには一切の柔らかさがない。ミーティングルームの空気が一気に冷えたのを、私ははっきりと感じた。

 私、何か無駄なことでも言った? それとも──これが、この人の通常運転?
 気を取り直しながら、私はなんとか表情を整え、引きつらないようにお行儀のいい笑顔を浮かべる。

「……こちらが全体スケジュールのチャートです。進捗の管理はこちらで行いますので、随時ご確認をお願いできれば」
「はい」

 それだけで、会話は終わった。Siriと話す方が、絶対に会話が盛り上がる。
 これって……冷静を通り越して冷淡なのかも。
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