氷壁エリートの夜の顔

第13話 風邪

 朝、まぶたがいつもより重く感じられた。

 深く息を吸って体を起こそうとするが、全身が鉛のように重い。関節は軋むように痛み、頭の奥も霞がかかったようにぼんやりしていた。

──風邪だ。しかも、ちょっと厄介なやつ。

 なんとか身体を起こし、クローゼットの引き出しから体温計を取り出す。壁に背を預けたまま測ってみると、37度5分。
 やっぱり、という気がして、私はため息をつく。──病院に行かないと。

 特別、無理をしているつもりはなかった。

 会社は定時退社が基本のホワイト企業。入社から4年、任された仕事はきちんとこなしてきたし、有給もしっかり取れている。人間関係も穏やかで、職場環境には不満がなかった。

 古美多のバイトも週4日。平日は短時間、土日は少し長めだが、生活リズムさえ整えば負担には感じない。むしろ、あの店では自然に笑えている時間のほうが多くて、私にとっては心のバランスを取る場所のようなものだった。

 だからこそ、気が緩んでいたのかもしれない。
 年に一度くらい、こうして突然ダウンすることがあるのだ。
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