氷壁エリートの夜の顔

第14話 プリン

 一夜明けて目を覚ました瞬間、自分の体が驚くほど軽くなっているのに気づいた。
 まるで、一晩かけて汗と一緒に毒素まで抜けてしまったような、清々しい感覚だった。

 冷たい水が飲みたくて、冷蔵庫を開ける。すると、棚にはずらりとプリンが並んでいた。

 焼きプリン、ミルクプリン、コーヒープリン、かぼちゃプリン……。
 きっと彼は、プリンが大好きなのだ。そして、私の好みがわからなくて、片っ端から買ってきてくれたのだろう。

 そう思っただけで、自然と笑みがこぼれた。
 
「……私がプリン嫌いだったら、どうするつもりだったんだろ」

 自分でも可笑しくなって、ひとしきり笑う。
 そして、笑顔のままで冷蔵庫にもたれかかった。

──結城さんが、好きだ。

 彼のことを知れば知るほど、どんどん惹かれていく。
 けれど同時に、そんな気持ちは、自分には似合わないとわかっている。

 大切な家族がいて、支えてくれる友人がいて、本業もバイトも充実してる。
 このまま頑張れば、柚月と律希の夢だって、きっと叶えてあげられる。

 これ以上望むのは、きっと分不相応だ。
 恋なんて、今の私には贅沢すぎる。

──うん、わかっている。

 洗面所の鏡の前で、自分の両頬をぱんと叩いて気合いを入れる。

「よし、今日も頑張ろう」
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