蛍火のような恋だった
第6章 滄海(そうかい)

「完成したの」

青空が広がる放課後、屋上にいる私と凪くん。

壁に背を預けて一緒に座りながら、私は凪くんにスケッチブックを見せる。

ずっと描き続けていた絵が、やっと完成した。

「やっぱり上手だな」

絵をじっくり見ながら凪くんが穏やかな口調で言う。

今まで私たちの間にあった距離は、今はたった数センチに近づいた。

隣に凪くんがいてくれる、それだけで今の私には十分だ。

「次は、凪くんを描こうかな」

「…俺?」

凪くんが少し目を瞬かせて、ちょっと困ったように笑う。

「そ、凪くん。人物画って描いたことないけど、凪くんなら上手く描けると思うの」

「恥ずかしいから、俺はいいよ」

「えー、とびっきり上手く描くのに。じゃあ次、何描こう」

ふと、視線の先に凪くんのカバンにぶら下がる、クジラのキーホルダーが目に入った。



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